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「SUNNY 強い気持ち・強い愛」 ★★ 2.1

◆最強90年代の女子高生とJ-POPのSWEET 19 BLUES♩、忠実リメイクも懐古ばかり大根役者と演出はルーズでチョベリバ

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カン・ヒョンチョル監督の2011年の韓国映画「サニー 永遠の仲間たち」を大根仁監督がリメイク。

基本的にストーリーやキャラクターは大きな改編をせず、設定だけを日本の90年代の女子高生に置き換えてている。改めて振り返ると90年代は、バブル崩壊"日本の混迷期"が始まりだした"最も狂った時代"、その時代の先端を牽引していたのは政治家などではなく間違いなく"女子高生"だった。

アムラー、細眉、ルーズソックス、コギャル、ショップバッグに、egg、歴史上最強だった女子高生の時代、市場価値も口の悪さも凶暴さもまさに無敵(描き方は少しステレオタイプ過ぎるけど)。

この90年代ど真ん中世代には刺さりまくりの青春ノスタルジーで胸が熱くてたまらないだろうが、それ以降の若い世代には昔の流行りでダサく感じたりもするのだろうか、この「世代の隔たり」によって受け取り方や評価が変わってくるはず。

 

作品としては、韓国版が良すぎるので比べてしまうと明らかに劣ってしまう。単体作品として見れば面白いとは思うのだが、韓国版を見てしまうとやはり厳しい。

韓国版は緩急つけた演出と、時代背景を絡めた容赦のない現実描写、何よりも自分が人生の主人公となるために自立していく過程をしっかりと描いていて、「昔とは違うけど、今を生きていく」というテーマがしっかりと響く。

一方、今作はよりPOPに見やすくなっているが、表層的な90年代ネタを多用した過去への懐古ばかりで、「過去の思い出にすがって嫌な現実は忘れよう」と逆にも捉えられてしまう。また、ほぼ全てセリフで説明してしまい、映画としての奥行きが感じられず非常に薄っぺらい作品となっている(プロデューサーが川村元気というのもあるが)。

 

また、恐ろしく忠実なリメイクで、ほぼ同じ上映時間、同じ構図やカット割りまで意識して合わせているところも多い。大好きがゆえのリスペクトは分かるが、大根監督らしいオリジナリティを加えて欲しかったし、複数の重要なエピソード(韓国版は7人で今作は大事な一人が足りない)やディテールも削られていて、深く響いてこなかった。

 

構成も過去と現代がダラダラと入り混じりながら、根本的に登場人物が過去にヒントを求めたり、自ら問題を解決することもなく、有機的につながりもしない。そもそも友達を探すのは探偵に任せきりで、見つかったら病室に行って昔はよかったなあと懐かしむのを4人繰り返すだけで、現在抱えている問題に真摯に向き合うプロセスがないのでラストのカタルシスも何もない。篠原涼子の娘と夫との関係とか、営業成績の話とか、中途半端なままだし。

グループメンバーも全員キレイで可愛くて、基本的に似たような良い子がコギャルの真似をしてる感じが強く、もっとコギャル以外の個性や泥くさい感じが足りない。韓国版は普通ならグループを組まないであろうメンバが集まって互いを尊重し合ったり、労働闘争などを時代背景に他グループとケンカになったりしている・・のに今作はプールでケンカとか何それ(青春=プールとかいう安易さ)。

また、韓国版は篠原涼子の娘がいじめられていたのをみんなでカチコミに行くのに、今作では小池栄子の浮気旦那に行くという改悪(コンプラを意識したのか)。

一番納得いかないのが、例の事件後にSUNNY全員が集まって結束を固めるシーンが無いところ・・いや、あれだけ仲良かったのに例の事件以降に一度も会わないってその程度の関係ってこと?、全然SUNNY(永遠の仲間、強い気持ち・強い愛)じゃないのでは。。

あと、SUNNYというグループ名の付け方も無理やりすぎる、陽が当たったからサニーとか思いつきで活かしてない(韓国版は有名曲からいろいろ演出につながっている)。

 

今は簡単に世界中の誰とでもつながれる世界だけど、90年代の頃は自分の生活圏内の狭い世界しかなくて、だからこそ直接のリアルな友達付き合いが重要で・・また当時は一人でいる時間をつぶせるほどの娯楽も無かったこともあり、友達と遊ぶ時間がいかに大切な存在だったか。今の女子高生はそれほどうるさく大騒ぎするわけでもなく、とにかくスマホがあれば一人でも楽しく友達ともつながれる(逆に見えないだけに怖さや陰湿さも際立つ)。

テレクラ、売春、ブルセラ、リーマン狩り、ドラッグとかワードを見ると物騒だが、今は形や名前を変えてるだけでより見えにくくなっている。コンプラや取り締まりは厳しくなったけど、当時は良くも悪くも比較的いろいろと寛容だったなあとも思う。

それでも、全員が援交したりパンツ売ったりオヤジ狩りをしてたわけでなく、大都市の限られたところだけ(今作は全体的に素行悪すぎるけど底辺校なのか?)。だいたい多くの普通の田舎の学生にはテレビや雑誌の中の世界であり、そこには懐かしさはあれどリアルはないことは伝えておきたい。

 

 

【演出】

90年代のJ-POP黄金時代、とにかくCDがちゃんと売れて握手券なんか無かった時代。セレクトは王道ばかりで、安室奈美恵久保田利伸・TRF・パフィ・ジュディマリなどなど・・三浦春馬(ロン毛DJ)がヘッドフォンで広瀬すずに聞かせるCharaの「やさしい気持ち」は良かったが、全体的に場面に当てる曲に意味を持たせず、それっぽいBGMとして並べてるだけの印象が強い。

せっかくサブカル好きの大根監督ならモテキのようにもっとニヤリとさせてくれる選曲にして欲しかった。ダンスの選曲で「TRFばっかになると被って目立たないので、逆にオザケンが良い」と当時のギャルに言わせたのは良かった。が、個人的には過去と現代の曲は使い分けて欲しかった、今作は全体監修が小室哲哉なのでずっと同じ感じでつまらなかったので。

伊東家の食卓とか、からくりテレビが出てきたところや、90年代ファッションの再現は男どもも含めてほぼ完ぺきだった。

当時みんなで競い合うように撮ってたプリクラのアルバムは今もみんな持っているのだろうか?、これって今でいうインスタを競い合うのと同じなんだろうな。

 

【役者】

役者は、学生時代が全員キレイで可愛すぎないか・・あんなグループいるのか? 広瀬すずは可愛すぎて全然田舎もんに見えない、変顔やぶち切れるところは頑張ってはいたが、演出のせいもあり少し過剰すぎたかな、「ちはやふる」に続く白目演技とコロコロ変わる表情は見事だったけど。山本舞香二階堂ふみと被る)も良かったが、やはりダントツで池田エロイザもといエライザのかわいさは異常、これだけで見る価値があるくらい、でも大人版の女優は誰もいなかったのか・・ポスターから消えている時点で怪しいとは思っていたが・・

大人版では、ともさかりえが意外にハマっていて怪演だった(金田一の頃のかわいさが懐かしい)。板谷由夏は末期がんとは思えないくらいキレイだったが(病的に見えないのがいまいち)、最初予定されていた真木よう子版も見て観たかった。

 

【ラスト】

最終的に、死ぬ前の病室には来られなかったともさかとエライザだったが、葬式には全員集合して、遺言でみんなハッピーになり、なぜか最後今までの登場人物全員でインドさながらのダンスで終わる。。(最後は「SUNNY」が良かったがオザケンでの微妙なダンス)。

いや、学祭でエライザの頬が切られた事件は痛ましいけど、それっきり会わないのはやはり納得がいかない、女子だからそんなものでもないでしょ、傷ついた時こその仲間でしょうが、永遠の仲間なんて言えないでしょ。

そのエライザも「故意に身を隠しているとしか思えない」とあれだけ見つからなかったのに、結局あっさり会えてしまうし、事件後いままで何があったのか全く語られもしない。

そして、なぜか探偵のリリー・フランキーが遺書を開けて読み上げるし(遺産管理は弁護士必要、韓国版は顧問弁護士が出てきた)。

 

何よりも、ラストをハッピーエンドにするためか、今みんなが抱えている問題をすべて「お金の力」に物を言わせて解決させてしまうという・・いや一人もので相続人もいないからとは言え、高校時代3年過ごしたきり一度も会っていない20年ぶりの間柄で、ともさかなんて結局会ってもないのにマンションも子供の養育費もお店まであげてしまうとはいかがなものか。。(他にも大事な人いるでしょ、会社の人たちとか)

本人たち自身で問題を乗り越える努力や経緯、成長もほとんど見せずに、最後に集まっただけで解決するとか、涙ながらにありがとうと言われてもその涙は何の涙なのか、見てる方はどこで泣けばいいといいのか・・

まあ、この再会をきっかけにこれからは陽の当たる永遠の仲間として励まし合っていく・・と見ればよいのだろうが。

「想い出はいつもキレイだけど、それだけじゃお腹がすくわ♩」

とにかく、韓国版は見ないに限るか、一切忘れて見ることをおススメします。