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「21世紀の女の子」 ★★★☆ 3.7

◆女の子のための女の子による女の子の映画、永遠ではない少女性に永遠を求めること「ローハッピーエンドロール、少女のままで死ぬ♩」「夢見る少女じゃいられない♪」 

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溺れるナイフ」の山戸結希監督が企画・プロデュースを手がけ、自身を含む1980年代後半~90年代生まれの新進女性映画監督15人がメガホンをとった短編オムニバス映画。「自分自身のセクシャリティあるいはジェンダーがゆらいだ瞬間が映っていること」を共通のテーマに、各監督が1編8分以内の短編として制作したもの。

孤高の天才のイメージだった山戸監督がこのようなフェミニズムの連携を主導していくとは思わなかったが、いまだ少ない女性監督を盛り上げていきたいという気概が感じられ、その実行力は素晴らしいと思う。

 

人によって切り取り方は様々で、テーマを掘り下げているもの、あまり触れていないものなど玉石混交ではあるが、テーマと8分間という制約があるからこそ出てくる個性は感じられた(制約が多ければ多いほど果敢に攻めたいところだが)。

全体的にオシャレで可愛い女の子とアートな映像で満たされ一編の詩集を読んでいるような気持ちになるが、個々で見るとナレーションを多用するわりに画も話も抽象的で結論もなく分かりづらい・・台詞とモノローグ、写真や編集など山戸監督の影響を受けた作品が多く、似たような雰囲気が続くので途中で飽きてくる人もいるだろう。

もう少しバラエティ豊かにぶっ飛んだ作品も見たかったのも確かだが、まさに現役の女の子やサブカル好きやインスタ世代の「カワイイ」好きには堪らない映画なのは間違いないはず。

 

強くて儚くてか弱くて可愛くて最高に美しい生き物、女の子が描く女の子の姿にどうしようもなく惹きつけられる、「女の子に生まれて良かった、女の子である限り常に可愛く生きていたい」と思わせられるだろう。女の子はいつか終わりが来ることが分かっているから、生き急いだり、自ら死を選んだり、惰性で生きたりするのか、その呪縛から逃れられないのか・・自分を愛せる女の子だけが幸せになれるのか?、女の子と女子と女と女性と観る時期によっても見方が変わるような気がする。

それぞれの人生、それぞれの価値観、恋愛、セックス、ジェンダー、多様性、変わらないものと変わっていくもの、「20世紀の女の子」と何が違うのだろうか・・男も含めみんなで語り合うのも面白いかもしれない。。

 

※ここからネタバレ注意 

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【(ネタバレ)各作品・コメント】

個人的に好きなのは④⑤③あたりだけど、やはり⑭のラスボス・山戸ブランドの圧倒的な作家性には誰もかなわない。結局、山戸監督の凄さが際立ってしまっているのは狙いなのか?、自らのプロデュースなので仕方ないのか?

 

①『ミューズ』監督:安川有果、主演:石橋静河中村ゆり

写真を撮る・撮られる関係、消えてしまいそうな自分自身と向き合いながら消えないように撮られ続けるミューズ、フォトグラファーはなぜ彼女を撮り続けるのか?。ラストのセリフ一言で終わらせて余韻を残すが、全てモノローグで説明してしまうのが勿体なかったかな。石橋静河の踊る姿は「きみの鳥はうたえる」を思い出した。

 

②『Mirror』監督:竹内里紗、主演:朝倉あき瀧内公美

続いても写真題材、『四月の永い夢』の朝倉あきと『彼女の人生は間違いじゃない』の瀧内公美という新鮮な組み合わせ。合わせ鏡のような二人のフォトグラファーによる芸術論、プロフェッショナル論。

 

③『out of fashion』監督:東 佳苗、主演:モトーラ世理奈

カリスマ読者モデル役ということもありモトーラ世理奈の魅力爆発で説得力が半端ない。岩井俊二っぽい撮り方で、流されずに変わらない自分を選択した女の子を肯定するメッセージが伝わってくる。自分も王子と呼ばれていた先輩のような大人になってしまったのかな・・

 

④『回転てん子とどりーむ母ちゃん』監督:山中瑶子、主演:北浦愛南果歩

今作の中で一番奇抜でぶっ飛んでいて想像性豊かな作品、中華テーブルを囲む母たちと中央に座る少女の対話という奇妙な話。様々な「女性」の視点での考え方を少女の夢のように表しているのか?「愛した後でも愛を示せよ」ティッシュ問題は男としても大事なところ(自分は渡しています)。

 

⑤『恋愛乾燥剤』監督:枝 優花、主演:山田杏奈

少女邂逅』『放課後ソーダ日和』とノッている枝監督で期待してたが悪くない出来。好きな相手と両想いになれたのに何かが違う、偶然手に入れた「恋愛乾燥剤」で一度リセットしてみるが、逆説的に二人の関係が示されるラストも秀逸。やはり山田杏奈が可愛くて今回もやられた。。

 

⑥『projection』監督:金子由里奈、主演:伊藤沙莉

公募監督枠、これも写真題材、被写体となって肯定されることで自己肯定は自信へと変化していく。変わらない選択をする女の子を肯定する③とは逆であり、どちらも肯定する女の子を描くことで可能性を示す。伊藤沙莉が珍しく静かで内気な素顔でさらけ出すが、むちゃくちゃ可愛く、写真撮影の中で輝いていく様が圧巻、新しい顔をいくつ持っているのか・・恐るべし。

 

⑦『I wanna be your cat』監督:首藤 凜、主演:木下あかり

あれこれと理屈をつけながら、利用することしか考えていない映画監督と、それを承知で彼のために書き続ける脚本家。温泉旅館で浴衣の二人のダメダメな愛おしさ、可愛さ全開のラスト。

 

⑧『珊瑚樹』監督:夏都愛未、主演:堀春菜、倉島颯良、福島珠理

性同一性障害の女の子が、男として好きな女の子と、友情を感じている女の子と過ごす別れの日の物語。3人キレイに描いているが、ちょっと表面的で浅い印象でメッセージが響いてこない。

 

⑨『愛はどこにも消えない』監督:松本花奈、主演:橋本愛

『脱脱脱脱17』のユーモアとはまた違った角度から。二人で過ごした時間は過去のものだけど否定せず、楽しく美しく大切な思い出として肯定する「決別と悲しみからの再生」。橋本愛の抜群の存在感と画面映え、普段はクールな役が多い中、久しぶりに愛らしくキュートで惚れてしまう。

 

⑩『君のシーツ』監督:井樫 彩、主演:三浦透子

実は一番真面目にこのオムニバスのテーマに取り組んでいる感じがする。男性として女性を愛するという夢を繰り返し見ることで、普通なら分からない男性の気持ち「自分は彼にこういう気持ちで愛されているのか」という感情を共有する。『天気の子』で歌ってすっかり有名になった三浦透子だが、女優としてもやはり一級品。

 

⑪『セフレとセックスレス』監督:ふくだももこ、主演:黒川芽以

ラブホのベッドの上で、お茶を点てる出だしから良い、なぜセックスレスになってしまったのか?終盤に向けて徐々に距離を縮めていくことで示される変化。ラスト二人が云う「ズルいなあ」は良かったが、二人に絞っている割には心情の動きが少し浅いかな。

 

⑫『reborn』監督:坂本ユカリ、主演:松井玲奈

かなり詩的で抽象的な作品。彼と一緒にいながら変質していくことを受け入れてしまっている自分「私の半分は海にいる」、心の奥底にある自分でも分からない未知の感情を海に例えているのだろうか? 

 

⑬『粘膜』監督:加藤綾佳 、主演:日南響子、久保陽香

『おんなのこきらい』でも女の子の本質を描いたが、今作は一人を深く愛する女性と、「セックスくらいでは何も変わらない」と浅く付き合いながらも男に主導権を渡さない二人の対比、一人の中の両面性。日南響子のエロカッコイイ美しさが際立つ。

 

⑭『離ればなれの花々へ』監督:山戸結希、主演:唐田えりか

山戸監督の個性全開、ポエムの言葉の力と音楽の怒涛の乱反射と細切れの編集による宣誓映像は次元が違う。『おとぎ話みたい』の終盤の屋上、『溺れるナイフ』のアバンタイトルでも窺えた山戸ワールド。今を生きる複数の女の子たちの姿(レズビアン、セフレ、思春期の恋、将来の夢)を通して、女の子、母、命、孤独、愛として最後をまとめるこの映画全体の締めにふさわしい作品。次の大林宣彦を引き継ぐのは間違いなし。

 

⑮『エンドロールアニメーション』監督:玉川桜

女の子が羽ばたくまで繋がっていくような可愛さあふれる、ミニマムから壮大なエンドロールアニメ。エンディング主題歌の大森靖子平賀さち枝という分かってるチョイスも素晴らしく、「Low hAPPYENDROLL」「少女のままで死ぬ♩」のフレーズが頭から離れない。

 

「今まで見せた作品は、母とか娘とか恋人や妻とか役割やこうあるべきなんていう決め事から女の子には自由でいて欲しいという願いを込めた」とのコメントあり。21世紀の女の子のこれからの可能性、女の子への愛と映画への愛がギッシリ詰まった一秒に24回嘘をつく芸術。

未来に向けて夢と希望を乗せた予告編集「22世紀の女の子」も観てみたいし、「21世紀の男の子」も新進気鋭の男性監督に撮って欲しい、こちらも多様性あふれて昔ながらの漢は出てこないかもしれないが・・