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「バンブルビー」 ★★★★ 4.1

 ◆新監督で80年代の青春友情物語にトランスフォーム、バンブルビーと主人公の可愛さ&80's音楽全開で誰もが楽しめナイトね

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トランスフォーマー」の中でもマスコット的な人気のバンブルビーが地球を守ることになった前日譚、スピンオフで言わばエピソードゼロ。今までと違って、大好きな父を失い新しい家族に馴染めない少女と、母星から地球に逃げて記憶を失ったロボットの出会いと友情・成長を描く爽やかな青春ものになっていた。

トランスフォーマー」シリーズは今まで5作あり、監督は「1つの映画にどれだけ火薬を使うか?」命で、途絶える事の無い大爆発とグルグル回るカメラワーク、セクシーブロンド美女、全く残らないストーリーといつも詰め込み過ぎなマイケル・ベイだった。回を追うごとに興味も評価も下がってきていて、さすがにこのままじゃマズイと思ったのか、今回はトラビス・ナイト監督にトランスフォーマー

トラビス・ナイト監督と言えば、ストップモーション・アニメーション最高峰スタジオ「ライカ」のCEOでアニメーター、2017年の傑作「クボ と2本の絃の秘密」を手掛けており、意外な人選だけど期待はしていた(ちなみに父様はナイキの創業者、フィル・ナイト氏で自身もナイキの取締役!で顔もイケメンと天は二物を与えた感)。

その結果、114分と比較的短く、家族と友情と成長のシンプルなストーリー、最高に格好いい変形ロボットの戦闘シーンと、原点に戻り圧倒的なジュブナイル感で楽しませてくれる素晴らしい作品となった。

1本の映画としてしっかりと完結していて、必要な情報はだいたい説明されるので、事前にシリーズを予習しておかなくても初めて見る人でも十分に楽しめます。若い子が仲間同士で、デートで、家族で、大人ひとりで観ても楽しい万能映画だが、今まで通りのバリバリのくどいロボット・アクションを望むベイ信者には少し物足りないかも。

 

とにかくバンブルビーがカワイイ、基本的に子どもなのでやんちゃだし、怒られて拗ねたり、巨体を持て余している様子が、飼ってる犬やペットを思い出させてくれるはず。見た目は機械でメタリックだけどローテク感があり、その目元や雰囲気の細かい表情が素晴らしい、さすがストップモーションアニメで命を吹き込んで魅せてきただけある。

そして、もう1人の主人公チャーリー、父親を亡くした現状を受け入れられず周りに当たってしまうが、本当はそんな自分が嫌いな思春期ガール。メカに強くて車を修理しつつアイスクリーム屋でバイト、モーターヘッドやダムドのTシャツを着て、朝からザ・スミスを聞くなんて最高に生かしたキャラで、この二人?のバディものなら誰もが楽しめるに決まってる。

 

本作の舞台は、シリーズ1作目の主人公サムとバンブルビーが出会う以前の1980年代(1985年頃)となっているため、80年代を意識した映画や音楽が数多く登場し、ノスタルジックな作風に仕上がっている。80年代青春コメディの良さを甦らせているのも素晴らしい。

基本的に当時の音楽を用いてバンブルビーに話させたりコミュニケーションを取らせていて、そこで使われる音楽の選曲が自分の年代的には最高!

アーハ「テイク・オン・ミー」(デッドプール2でも使われてた)、スティーヴ・ウィンウッドハイヤー・ラヴ」、ボン・ジョヴィ「夜明けのランナウェイ」そう使うか、ティアーズ・フォー・フィアーズ「ルール・ザ・ワールド」、ワン・チャンなどのヒット曲が全編を彩る。特にザ・スミスの使い方がうまくて、朝イチで聴いてたり「ザ・スミスで喋ってる!」と言わせたり。カーチェイスシーンのサミー・ヘイガーの「アイ・キャント・ドライブ55 」もハマり過ぎ。単に懐かしさでかけてるわけでなく、曲の内容と使われるシーンの意味がきちんとリンクしているので、より分かりやすく響いてくる。

チャーリーが選曲して入れるカセットを即座に却下して吐き出すバンブルビー、すぐれた音楽批評家でもあるよう。リック・アストリーをイントロだけで吐き出すシーンは爆笑。ザ・スミスも最初は吐き出したけど、後で受け入れてくれたのは、体験を通して子供から成長してスミスに共感できるようになったんだなあ・・となぜか親心。

 

【演出】

シンプルだけど、伏線の回収をバッチリかましてくれ驚くほどムダのない脚本、子供が見ても分かりやすく万人に面白く見せている。

オープニングで発端としてオートボットvsディセプティコンの戦闘を素晴らしいCGで、従来の醍醐味をいきなり見せてくれる。

車や戦闘機がロボットに変形するところが、トランスフォーマーの一番の魅力だが、過去作ではロボットというより「金属生命体」感が強く、複雑で細かく動きがスムーズに速すぎて違和感があった。今作はちゃんと機械っぽい部分がガリガリ動きながら、いかにもロボットとして分かりやすく変形するので、見ていて気持ちがいい。やはりアニメ出身の監督というのが大きいのか。

あとは、過去作ではキャラも多く動きが速すぎて、戦闘中に「誰が、どこで、何をやっているか」が分かりにくかったのが、非常に見やすくなっている。今作は敵もシャッター&ドロップキックの2体で(その分少し個性やインパクトが薄かったが)、赤と青のカラーで、黄色いバンブルビーとの違いが明確、ほぼ3体で取っ組み合いの戦闘でも見分けがつきやすくなっていた。

全体的に戦闘シーンは過去作に比べると少なめだが、要所要所ではシリーズのアイデンティティとして爆破シーンを盛り込んでいるのはベイに気を使っているのか?

 

バンブルビーは自分の言葉で喋ることができない設定なので、姿勢や動きといったボディーランゲージや表情でコミュニケーションを取る必要があるが、アニメーター出身らしく痛み、悲しみ、喜びを感じるキャラクターとして見事に表現していた。最初はオドオドしているが、ラストでは堂々と流れるようにトランスフォームして、赤ちゃんから再び戦士となっていく。なぜ喋れなくなったのか、どういう風に会話をする様になったのか、なぜカマロになったのか、などシリーズものとしてきちんと謎を明かしてくれるのも気持ちがいい。

バンブルビーが窮地に追い込まれていた時にオプティマスプライム率いるオートボットが助けにくると思いきやそうしなかったのも成功している。今作のテーマとして、地球の人類を守るために戦うことになったプロセスを丁寧に描く必要があり、大バトルにするよりもチャーリーとバンブルビーの関係に絞ったのが見事。

ちなみに劇中でもあったが、Bumblebeeの意味はマルハナバチ(聞いたことなかったが)とのこと。

 

80年代へのこだわりとして、あえて盛んに使われていた60〜70年代に作られたカメラレンズで撮影したり、アスペクト比も80年代に一般的だったものと同じにしている。衣装、音楽、当時の雰囲気、色合いやカメラレンズ、すべて80年代を感じてもらうために意識したとのこと。

有名なので知ってる人は多いと思うが、1985年のアメリカの代表的青春映画「ブレックファスト・クラブ」は、画面に何度か使われたように、素晴らしいオマージュがちらほら登場していた。あとは、「E.T.」や「アイアン・ジャイアント」も強く感じさせられた。何気に部屋に「エイリアン」のポスター(リプリーの自立した強い女性へのあこがれか?)も貼ってあった。

 

【役者】

主人公チャーリーのヘイリー・スタインフェルドは14歳の時にデビュー、いきなり「トゥルー・グリット」でアカデミー賞助演女優賞にノミネート。「ピッチパーフェクト2」で見事な歌声を披露し、ポップシンガーとしても活躍。「スウィート17モンスター」でも常に仏頂面で思春期に迷う姿を繊細に演じて、大注目の女優。

今作でも18歳という繊細な感受性や素直な心、揺れ動く年頃を表情一つで自然に体現していて可愛くて魅力的(意外と身長173cmもあり)。ラストで自身が歌う主題歌「Back to life」も80年代ライクな曲で爽やかな締められる!

 彼氏候補?メモのジョージ・レンデボーグJrは「ラブ・サイモン」や「ブリグズビーベア」とここの最近で良いヤツを演じたら右に出る人はいないのでは。今回は、突っ立って「大丈夫?」しか言わない足手まとい感もあり、あまり活躍はなかったが、チャーリーとも手をつなぐくらいで、ちょうど良かったのでは。

少佐を演じたジョン・シナは、ロック様に続くWWE出身だが、表情の変化に乏しく最後の味方になる時も伝わり感が弱かったのが残念、最後の敬礼はWWEでもやってるからバッチリだったけど(笑)

 

※ここからネタばれ注意 

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【(ネタばれ)ラスト・考察】

最後は、地球のために戦い続けなければならないバンブルビーと、一緒について戦ってはいけないチャーリーがゴールデンゲートブリッジを望む丘で感傷的な別れを遂げる。

丸いフォルクスワーゲンから車体をスキャンして黄色いカマロに変貌を遂げるバンブルビー。最初の赤ん坊状態から、チャーリー同様に過去の傷を乗り越えて立ち直り、かつての勇敢な戦士に戻ったのだ。最後のカマロのスキャンから、カーステでの別れのセリフ、そして橋の上でオプティマスと合流して並走していくシーンは最高。

一方でチャーリーも、ガレージの中にあった父親とのツーショット写真の横に、バンブルビーと彼女の写真を置いた。血の繋がらない父親と弟がいる家庭で疎外感を感じていたチャーリーは、バンブルビーとは友情を超えた何か父親的なの愛情も感じていたはず。最後は父親の死を受け入れることができ、そんな過去の呪縛から解放されたのだろう。そして、新しい車を修理して自分ひとりで運転して橋の上を疾走していく、ようやく一人前になって、自分で新しい道を進んでいくのだ。

今作はマイケル・ベイには絶対に作れないトランスフォーマーであり、過去最高の評価となっている。ベイはプロデュースに専念して、監督は別の方が良いということを証明されてしまったが・・果たして次はどうするのだろうか? 個人的には同じ布陣で、今度はオプティマスの物語をじっくり描いて欲しい。