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「検察側の罪人」 ★☆ 1.9

【ネタバレ酷評注意】この映画の製作側の罪人は? 最後の叫びは観客側が「あぁーー!!」だよ、監督の個人的な思想を含めた原作改変や負けないキムタクは健在か・・

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映画化もされた「犯人に告ぐ」の原作者・雫井脩介2013年に刊行されたミステリー小説を原田眞人監督・脚本によって映画化。予告編の感じでは、最上・キムタクと沖野・ニノの検事としての対立・正義とは何か?の心理描写が見ものかと思いきや、つまらなくはなかったが、いろいろと残念な作品だった。

今作のテーマは、「時効」など法による完璧な正義の遂行はあり得ない中、「不法行為」を犯してまで法で裁こうとすることは正義と言えるのか?

法の信奉者である新米検事・沖野の心境の変化を通して「正義」について考えさせられる構成なのだが、結局は復讐に取りつかれた最上が私怨を晴らしただけに見えて、お互いの内面での対立や葛藤も弱く、最後までテーマが響いてこなかった。

 

この映画を章ごとに分ける意味も無いし、脚本・編集が全体にわたって酷い、前半はそこそこ緊張感もあり面白く見れたが、後半はグダグダで意味の分からない展開が続き、それまでの関係性は何も回収する事もなくもどかしさのまま終わってしまう。

あんなに前半頑張っていたニノは、後半はほとんど活躍もせず「笑いを誘うキャラ」になってるし・・

この映画の芯となる主軸の事件も、後半であっさり解決(結局、本格的な法廷・裁判劇は全く無し)。蒲田の殺人事件に関しては、普通に捜査すれば真犯人に行きつくはずなので、あまりミステリー感もなく、ザ・ご都合主義でタイミングよく真犯人やら情報提供者が出て、ニノが頑張らなくても自然に冤罪は解決してしまう。

容疑者の松倉に関しては、登場時のインパクトがすべて、背景とか深みが描かれる訳でもなく表面的にいかにもステレオタイプ的なサイコパスのまま終わってしまう。

そして、最上は私怨を晴らすため証拠をでっちあげてまで松倉を有罪(死刑)にしようとしてるのに、一方で直接関係のない真犯人を殺すとか意味不明すぎ。どうせ殺すならさっさと松倉を解放して直接殺した方が私怨も晴れるだろうに。結局、最後は組織の殺し屋?が松倉を殺して解決してくれるという中途半端なカタルシスの無さ。

 

キムタクがやると「正義の鉄槌を下すダークヒーロー!」に見えがちだけど、どんなに許せないとしても、犯罪(それも殺人)に走った時点でどんな信念があろうが正義でも何でもない。検事ならではの知的に論理的に成敗してくれないと、ただの復讐ものだし。それに、銃を入手して土に埋めるとか殺害方法がやたらと雑でとてもエリート検事がやる犯行とは思えないし、リアリティもない。

 

【演出】

いかにも原田監督らしく、テンポ重視の早口で様々な登場人物の単語や情報が飛び交って、ついて行くのがキツイ作りになっている。

ロケ地自体は豊富だが、色も光も単調で、構図も人物主体で空間を活かしていない。

オーバーな顔芸と顔や口元ばかりがアップで(ジャニーズだから?)、いきなり叫ばせることにインパクトを置きにいってるし、セリフで説明ばかりしてる割りに肝心の言葉が聞き取りづらい。特に編集は相変わらずで、広い空間をハイスピードで動くカメラワークを途中でぶった切って、顔のアップに切り替えるとか意図がよく分からない。

振り返ると、過程やその後を描いていない脇のエピソードも多くて、最上の家族関係とか友人の丹野関連とか問題ありそうで深く掘り下げられないのでモヤモヤが残る。結局、それぞれがほとんど絡み合っておらず、別になくても良かったものが多過ぎる。。

 

何よりもいつもの原田監督の悪いクセが出ていて、原作には無い左寄りの社会風刺を付け加えているが、本筋のテーマと全く関係なく盛り込まれているのでドン引きしてしまった。最上の親友で衆議院議員の丹野の政界汚職と飛び降り自殺、その妻がネオナチ団体に傾倒していく倒錯ぶりと、丹野の葬儀で乱舞する大駱駝艦(舞踏集団)、更にインパール作戦の生き残りの子孫による繋がりや白骨街道、戦争特需を引き起こそうという国家レベルの陰謀など。明らかに現政権への批判であるが、あまりにも強引で露骨で何の説得力もないし、今の世代には全く意味不明。これらを最上の信念のベースとして描いているが、最上の正義とどう繋がるのかが全く分からない。単に監督個人の思想やイデオロギーに引っ張られての主張を入れたいだけとしか思えない。

 

事務次官吉高由里子の立ち位置も良く分からない。検察の実態を暴露するためルポライターとして潜入取材するのはいいが、冤罪を断罪したいのか、被疑者の家族を偏見から救いたいのか、中途半端で彼女の本当の思いが全く伝わってこない。バレた後のニノとコンビ行動も恋愛関係になるのも? 沖野の家に上がりこんでいきなりキスして「最初のキスは自分からって決めてるの」「2回目以降は?」「大人の男の流儀で」の流れは大いに笑わせてもらったが。。(原作のキャラ設定とは全く違う)

 

【役者】

キムタクは、HEROの久利生検事とは真逆なブラック検事、今までと違った悪い役を、スマップ騒動から心機一転チャレンジを図ろうという意気込みで熱演ではあるが、いかんせんキムタクの範囲内か。最上というキャラクター的は面白く演じ甲斐があり、人間的な弱さやカッコ悪いところをもっと見せた方がいいのに、最後までずっとカッコつけて撮られていたのは残念(監督のジャニーズ忖度なのか)、どんなに焦ってうろたえても髪型も決まって汚れも少ないしね。

ニノは、松倉を尋問するシーンがハイライトなだけで、総じて世間で言われてるほどスゴイとは思わなかった。突然スイッチが変わり早口で論理的にまくし立てるのは良いが、全体的にいかんせん童顔なだけに迫力に欠ける。後半はこれまた別人のようにユルくなり事務所を外れて吉高由里子とのコンビでは、むしろ邪魔でしかないような、二人が恋愛関係になる下りも謎だし、初めてのラブホにはしゃぐし、何よりも二人のベッドでの謎の体位、どうしたらああなるのか衝撃、ここが一番必見!

最後の「あぁーー!!」の叫びで終わらせる(いかにも邦画にありがちな)のも正直苦笑い、本人も何に対する叫びなのか納得してないのか?全く伝わってこない下手な叫びになっていた、これは監督のせいだろうが・・

 

松倉役の酒向芳は、あの気持ち悪さと何が本当か分からない感じが良かった、いい人を見つけてきたキャスティングの勝利。

個人的には松重豊が一番ハマっていた。オープニングのニノとの丁々発止のやり取りからキムタクの影となって暗躍するブローカー(なぜそこまで肩入れするのかは?だったが)まで、ブラック演技はさすが。結局は「最初から全部をこの謎の組織に任せたら丸く解決するのでは」と思ってしまったが、あり得ないほどのCIA並みの手際の良さでリアリティ無さすぎで映画の中では浮いていたけど。

 

【ラスト】

最後の直接対決も、一気に話を広げ過ぎて本来のテーマがブレブレの中、深い議論での戦いにもならず、結局何が言いたかったのか全く響いてこなかった。ラストカットのニノ叫びは何に対するものか 単にうまく言い負かされて悔しいーーとしか見えない。そして、帰るニノの背中を見ながら手に取ったのは銃かと思いきや何とハーモニカ!構図も含めなんだこれ・・

 

原作では、自分なりの正義を貫いた最上は犯行がバレて逮捕され、明らかに事件に関与していた松倉は無罪ということで理不尽にも釈放される、沖野はそんなジレンマに対し「正義とは?何が正しかったのか?」と、ラストに悲痛な叫びをあげる。どう考えても原作の方が圧倒的にテーマとしても響いてくるのに完全に逆になってる。最上が逮捕されず松倉は死んでしまったら何に対する叫びだったのか? 最上の今後の苦悩や沖野のこれから反撃するぞ!という感じにも見えないし・・

結局、いつものヒーロー・キムタクがダークヒーローになっただけで、勝ってはいないが負けてはいない、キムタクが(ジャニーズが)が最上に負けさせることを許さなかったのか、忖度か? 原作どおりだと面白くなりそうな題材とキャラクターなのに、監督の個人的な思想を含めた改変で残念な作品だった。

 

法律というものは、結局のところ絶対的な「正義」を保証する万能なものなんかでは無い、有罪率99%を誇る日本の刑事裁判、その裏では検察側が都合の良い解釈で事件を恣意的に導いているのは間違いないだろうが、現実的に検察側の罪人はどれくらいいるのだろうか?・・