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「スマホを落としただけなのに」 ★☆ 1.9

◆【酷評注意】お子様向けネット教育ドラマ、見るレベルを落としただけなのに、すべてが上っ面だけの成り済ましホラ笑って

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ジャパニーズホラーの代表としてハリウッドでも有名な中田秀夫監督が志駕晃による小説「スマホを落としただけなのに」を映画化。基本的にミステリーでホラー的要素は弱く特に怖いシーンはないが、誰もが持っているスマホを媒介としてじわじわと迫りくる恐怖は、ホラー的な演出が効いている。いつ自分の身に起きてもおかしくないこともあり、ある意味幽霊より怖い、映画を見終えた後は何度もスマホを落としてないか確認したり、ロックのパスワードを変えたくなったりと、改めてスマホを見直すいい機会にはなった。

パスワードやロックをかけていれば安心というわけでなく、簡単に解除可能で、SNSのアカウントも簡単に乗っ取られたり、カードの情報も簡単に取られたりと、スマホを落とすのは財布を落とすことよりはるかに危険なわけで。。

 

全体的に突っ込みどころ満載で、タイトル的にスマホを落とした話がメインになると思いきや、平行して描かれる殺人事件から斜め上の方向に飛ぶのにはビックリ。てっきりスマホを切り口に、ネット社会、社会全体に蔓延る悪意や憎悪、醜さを日常が足元から揺らいでいくような身近な恐怖をじわじわと描くのかと思っていた。

キャラクターの行動や思考を全部台詞にして役者に説明させる日本映画のダメなところも目立ち、登場人物たちの内面は掘り下げられていないし、とにかくすべてが上っ面だけで浅い。分かりやすいのが狙いにしても、観客のレベルを低くし過ぎ、中高生をターゲットして実際にヒットしたので戦略的にOKなのだが・・ネットリテラシーを高めるためにはちょうどいいのか。

しかし、富田のネットリテラシーが低すぎ、スマホを乗っ取られるのは仕方ないとして、変なメールが送られてきても発信源が怪しいとも思わず、あれほど生年月日をパスワードにするなと言ってるのに学ばないでデータを抜かるし、いろいろとやらかしすぎ。二人にそれぞれ異性との怪しい写真が送られてきた時点で普通はもっと真剣に大事にするはず。

このご時世、誰もが劇中の二人よりは気を付けているし、これで危機管理の大切さ伝えようとしているならば余りにも内容が薄すぎるのも否めない。

そもそも最初に、拾った人がその前に「交番に届けておきましょうか?」って言ってるのに、なぜ女性一人で直接会って返そうとしてもらうのか理解不能。たまたま彼女が北川景子(黒髪の美人)だったから標的になったが、違っていたら成り立たなかった話で、身に覚えの無いクレジットカードの請求レベルで終わってるはず。

同時期に、同じくSNSを扱ったサスペンス映画「search サーチ」があったが、いろいろとレベルが違い過ぎるのは仕方ないのか・・

 

※ここからネタばれ注意 

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【演出】

明らかにテレビドラマの作り(TBS製作)で、ホラー映画なのに照明が明るいし、光と影の演出に乏しい。脚本も甘く、不自然な場面設定や回想シーンの挿入、いろいろな人物からの視点で群像劇風にしようとしているが、非常にテンポが悪く全体的にチープな印象でしかない。

スマホ落とした話と猟奇的殺人の話は終盤で交わってくるが、話を交互に挟んで見せるので、スマホを拾った人物と殺人犯は同一人物なのは誰でもすぐに読めてしまうはず。

中田秀夫監督、「女優霊」や「リング」は演出含めこだわりが感じられたのに、ハリウッド行ってからか?年々レベルが落ちてきているのでは・・・各資本やテレビの制約もあって、ウケ狙い・当てにいっているのは仕方ないにしろ、作家性が薄れてるのは残念。。

 

加賀谷刑事(千葉雄大)がデリヘル店でデリヘル嬢の長い黒髪に頬ずりするシーン(セクハラどころか逮捕レベルだが)は、犯人とシンクロさせたいのは分かるがミスリードとしてはお粗末で引いた。犯人の過去よりも加賀谷の過去を描いているので何か深い意味があると思いきや、そうでもなかった(だから続編で主人公になるのだが、最初から続編を予定していたのか?)。しかし、最後の犯人の場所をピンポイントで当てるまでの同化性は無理があり過ぎ。ちなみに原作では加賀谷はわき役、原田泰三がメインの刑事らしいので、映画オリジナルの設定。

加賀谷刑事と犯人は、幼い頃に母親との関係で似たような経験をしていて、ハッカーレベルのPC技術を持っている、同じような境遇に育っても正しい道に進めることも出来るし、犯人のように悪の道にそれることもある。その意味だと麻美も家庭環境は上手くいってないので、3人ともに犯人になる可能性もあったのだが。誰からも認められず、誰からも愛されない、愛情への渇望・承認欲求が狂気へと走らせてしまうのは王道パターンか・・

 

犯人の異常性は、ヒッチコックの名作「サイコ」のオマージュなのか、母親に裏切られたトラウマ、そこからの異常性癖、カツラを被って女装、浴室・カーテン越しの狂気など、まんま同じでビックリ。

最後の遊園地でのグダグダな展開は、もう笑うしかない、その場所を見つける勘?、わざわざ田中圭の前で北川景子に過去の一連の真相エピソードを長々と言わせる、それを聞きながらヨコでじっと待っている画、からの拳銃で撃たれて逮捕される流れ・・

ただ、スマホを奪えば、本人でなくてもメッセージを送れるので、簡単なSNSだけでその存在と安心感を得られてしまうのは、改めて怖いと思わされたし、いかに希薄な結び付きで成り立っているか考えさせられた。

 

【役者】

北川景子はいつも通りの安定微感、繊細な心象描写はできず定型的なお遊戯演技だが、今回は逆にこの驚き・怖がりのオーバーなリアクションの方が安っぽいホラーの雰囲気には合っていたかもしれない。しゃべりが少なく、美しい顔が恐怖で引きつるホラーは向いているかも。

田中圭は、あまりにセキュリティ含め抜けたところがあり過ぎてイラッとしたけど(設定どおり)、こういう少し頼りない普通っぽい役はすごく映える。というか完全に「おっさんずラブ」の「はるたん」役そのままだったが。

バカリズムは、ネチネチした笑いとストーカーがいかにもの役すぎて絶対に犯人ではないオーラが漂っていた。

一番は成田凌の怪演かな、まんまサイコのノーマン・ベイツっぽい「マザコン猟奇殺人鬼」で、抑えられないあふれ出る狂気を見事に出していた。長い黒髪や風貌、微妙な声の震えや手の動き、特に見開いた目とかは(貞子か!の突っ込みどおり)気持ち悪さは最高で、子供が見たらトラウマになるかも。幅広く何でも器用にこなせるので、今後も期待の役者になるのは間違いないのでは。

あと、筧美和子が毎回こんな役だけど確かに分かりやすいぐらい使いやすい、ラストにプラネタリウムスマホを落とす少年が一瞬だけ映るが、なぜか北村匠海だった(続編に関係ないみたいなので友情出演なのか?)

続編は、千葉雄大成田凌がメインの主人公、刑事と犯人それぞれ同じような環境で育って違う道を選んだ二人は分かるが、この後どう展開させていくのか?

(これ以上スマホ関連や衝撃の展開は厳しいのでは・・)

 

【ラスト】

猟奇殺人の犯人は、予想通り成田凌で、こだわっていたわりに意外とあっさり捕まって「これ以上殺したくなかったから捕まって良かった」などと自供していて拍子抜け(続編への伏線になるのか?)。

それよりも、予告編で若干ネタバレしているように、新聞記事と踏切内で佇む麻美とは違った北川景子に何かあるな(双子?)と思っていたが、実は今の麻美は大学時代のルームメイトだった山本美奈代が整形した姿で、踏切自殺した麻美に成り済まして生きていたということだった。

大学卒業後、麻美は株取引に夢中になり、美奈代に無断で美奈代名義で借金を作ったため、その清算として麻美が美奈代のふりをして自殺し、美奈代には麻美として生きて欲しいと託したもの。と、この展開はさすがに無理があり過ぎで、もう全然「スマホを落としただけ」でなくなってるじゃん!

おそらくネット犯罪として「成り済まし」とリンクさせたいのかもしれないが、ただ「衝撃展開!」のために無理やり付け加えたようで、あまり殺人事件や全体の話に有効的に働いていない。。

「借金まみれで金のない女が何で北川景子レベルの最高級整形できるのか?」は最初からリアリティー的に許したとしても、全く警察沙汰にならずそのままだし、最後の田中圭からの復縁プロポーズもあっさり成功でハッピーエンドって・・

特に今までの流れからのプラネタリウムのラブシーンはスイーツ映画並みで爆笑してしまった、高校生ならまだしもいい大人が静かにしろ・・イチャイチャいちゃもんも付けたくなるわ。「太陽の爆発が地球に届くのは8分後」の話は使えると思ってしまったが・・

原作では「過去のAV出演」という事情も絡んでるらしく、まだこの方がリアルで納得できるが、北川景子だけに事務所が許さなかったのか?(そういや北川景子深キョンの「ルームメイト」というサスペンス映画もあったが、無理やり感は似ているかも)

とにかく、そんな過去を背負ってるなら、どう考えてもSNS(フェイスブックの個人情報)などあり得ないし、成り済まして生きている割にすべての行動が無防備でアホすぎるとしか思えなく冷めてしまう。

 

ただ、これだけのことがありながらも、最後までスマホを使い続けるのは良かった(「あさみん、新しい戸籍で人生やり直しませんか?」とLINEを通じて送られている)。これでスマホを一切止めてしまって、人と人とは直接的なコミュニケーションの方が重要だと声高に言われるより、使わずには生きていけないのが現実的だし、良いところがあり有効活用できるのも事実。その中で、誰かを何かを信じて生きていこうという小さな希望につなげるのはありだと思った。

スマホは現代の社会の全ての便利さを象徴するもので、住所、勤務先、クレジットカード、趣味、友人、活動履歴など、あらゆる情報がこの中に集約されていて、もう個人の権限すべてを握っているもの。一時も手放すことができない「スマホ依存症」ではないが、いざスマホを忘れた・無くしたと思った時の圧倒的な不安と恐怖は、これからまずます高度化していく中、全てへの影響力を増していくだろう。

とりあえず、人に見られて困るようなものはスマホには入れない、SNSなどの個人情報には細心の注意を払う、セキュリティ対策をしっかりしておく、自分の責任で出来ることはやるべし!