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「ハロー・ワールド」 ★★★★ 4.4

◆新しいセカイ系がひっくり返る「マトリックスインセプション」in 京都、アニメと人間の想像力と愛の力の無限の可能性にハロー・ワールド!「やってやりました!」

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京都に暮らす内気な男子高校生・直実の前に、10年後の未来から来た自分・ナオミが突然現れ、付き合って事故で死んでしまう同級生・瑠璃の命を救うため一緒に協力していくが、この世界に隠された秘密や運命に翻弄されていく・・

世界がひっくり返る、新機軸のハイスピード電脳系SF青春ラブストーリー。「天気の子」に続きセカイ系の新しい展開パターンとして、3DCG含めいろいろとチャレンジしていて見応えがあって面白かった。

京都の景観がリアルで美しい中、最初はキャラクターのヌルヌル動くCG感に違和感を感じる人も多いだろうが、次第に慣れてくるし、なぜ3DCGなのか理由も分かると入り込めるはず。前半に恋愛や世界観を説明し後半は怒涛の展開と、90分によくここまで詰め込んだなあと言うくらい速いテンポで進んでいき、思ったよりSF色が強いので、慣れていない人は途中で置いてかれてラストもポカンとなるかも。

「ラスト1秒でひっくり返る」のコピーは、意識しすぎて途中で展開が読めてしまうので個人的に好きではないが、ラストでのタイトル回収まで考察しがいのある良く出来た作品だった。

 

監督はSAO「ソードアート・オンライン」シリーズでお馴染みの伊藤智彦監督、VRもARも制覇した次なので、期待もプレッシャーも大きかったはずだが、見事に超えてきたのはさすが。

基本的には王道の少年が好きな女の子のために頑張る話だけど、今と未来どちらの主人公もヒロインのためだけに生きる。10年間愛し続ける純愛物語としても、内気なマニュアル人間から自分の意思で主体的に行動できるようになる成長物語としても良い。

そうさせるのも納得できるほど、ヒロインの瑠璃がとにかくツンデレ可愛いのも魅力、スマホがよく分からないと手紙でのやり取りや「やってやりましょう!」「あなたは私を愛してくれたんですね」と受け入れるところは最高。

デジタルとアナログが交わる古風かつ近未来的な京都な風景とSFが意外とマッチングしていて、京都の観光案内ビデオばりに定番の観光地が出てきて、エンドロールまで楽しめる。が、なぜか登場人物たちが一切京都弁を話さないのはやはり気にはなった(この世界観からは仕方ないのだろうが)。

本好きの主人公たちなので本がいろいろ出てくるが、3DCGの作画で装丁や造本などが施されてないので、四角の立方体ばかりで味気なかったのと、本を武器にするなど扱いが雑だったのは残念。

どうしても「天気の子」と比較さざるを得ないが、脚本や設定・アイディアは今作の方が納得できて楽しめた、ただやはり今の3DCGアニメとしての限界なのか画力では劣ってしまうのが残念。このストーリーのまま新海誠の画でも見てみたいのは贅沢すぎるか・・

こういうチャレンジする作品が増えていくことで、更に日本のアニメーション全体が新しい世界にハローワールドしていくことを期待していきたい。

 

※ここからネタバレ注意 

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【(ネタバレ)演出・考察】

野崎まどのシナリオらしいSF世界はさすがの完成度、「天気の子」は主人公たちが世界のカタチを変えたけど、今作は世界自体を新しく創造しているのが良い。

なかなか斬新な構成なのに既視感があるのは、様々な映画へのオマージュが感じられるからか・・全体的には「マトリックス」+「インセプション」の要素が強く(この仮想段階世界の概念が分からないと完全に内容を把握するのは難しいかも)、元は細田守作品に関わっていただけに「サマーウォーズ」や「時かけ」の描写にも似ている。異空間のシーンは「ドクターストレンジ」、脳やデータの書き換えは「リアル~完全なる首長竜の日」などが浮かんでくる。

特に、建築的・空間的・構造的な面での映像の精度の高さと想像力が素晴らしく、パラレルワールドは電子の世界なら実現可能かもと思わされた。後半にあるドラッギーな空間異動などの表現が「四畳半神話大系」などの湯浅政明監督のようでもあり驚き。ラストで、仮想世界から本当の現実に戻ったのに合わせて、それまでの3DCGからセル画の手書きに変わっていたのは細かいところまで見事だった。

今作のようなレベルの大量のログデータを、アルタラ規模のストレージで保持できるのか?、ログデータが自由意思を持てるのか?、グッドデザインをはじめ後半の何でもあり感(ルールには沿っているが)など、パラドックスは避けられないネタも多いが、この世界観の中では正直気にならなく、考えるだけ無駄だと思わせるのが凄い。

 

アイドル的な三鈴はキャラも立っていて二人に絡んでくるか?、違う世界から来て何かウラがあるのか?と思いきや、全く関わってこなかった、本当にただ直樹のことが好きだっただけなのか?(明確な表現はなかったが)。

どうも今作の外伝小説「HELLO WORLD if 勘解由小路三鈴は世界で最初の失恋をする」というのが出ているらしく、三鈴のことを含め物語の詳細が書いてあるとのこと(未読)。

 

音楽は、「君の名は」「天気の子」と同じように、映画のために内容や場面に合わせたオリジナル曲をバランスよく入れていた。集まったアーティストも、Official髭男dism 、OKAMOTO's、Nulbarichとなかなか玄人好みで個人的には好きなので嬉しい(あえて大物メジャー系にしなかったのがこの映画には合っている)。

それぞれのメイン曲がいつもとは少し違った感じで、一番世界観にマッチする場面にで効果的に使われていて良かった、髭男の「イエスタデイ」の歌詞は今作の本質を突いているのでは。ただ3者3様なので、RADWIMPSだけならではのような全体的な統一感は少なめ。

声優は、「君の膵臓をたべたい」のゴールデンコンビが再共演と話題性はあり(二人が図書委員なのも同じ!)、北村匠海は意外と馴染んでいて良かった、浜辺美波は声質は良いけど少し単調で聞きづらかったかな(顔とイメージが浮かんでくるし)、松坂桃李も難しい役どころを上手く感情をコントロールしていたのはさすが。

 

  【(ネタバレ)ラスト・考察】

「ラスト1秒でひっくり返る」はさすがに言い過ぎか、1秒ではなく1分くらい?だし、どんでん返し前提で見ているので正直、ナオミも記憶世界の住人だろうなとは思いつつ中盤で明かされるので、瑠璃を救うループを上回る返しなら、逆にナオミを救っている世界もありかなと思っていた。

ラストの前の二人の新しい世界で終わっても良かった、蛇足だと言う人もいるだろうが、個人的には八咫烏(ヤタガラス)の存在がはっきりしなかったので、ラスト振り返った時に全てがつながって爽快な満足感は得られた(大オチはあからさまに表現せずに違和感として考察のまま残すラストでも良かったかも・・分かりにく過ぎるか)。

八咫烏の声優を合わせて浜辺美波にしておくのもありだが、これだと分かりやす過ぎるし・・最後の現実の瑠璃の声が八咫烏の声優だった時の高揚感を考えると、やはり丁度いい良く出来たラストだった。

でも、実はラストすらも記憶世界で更に現実世界があるのかもしれないし、直実の作った新世界はもう一つの現実となったのかもしれないし(アルタラのリセットでおそらくパラレルワールドとして現実となった)、卵が先か鶏が先かの「円環」が成立するかも知れないと考えていくと深みにハマる。。

 

簡単にラストを整理すると・・要はラストまでの全ての世界は瑠璃ではなくてナオミを救うために作られた蘇生プログラム世界だった。

現実世界では瑠璃が脳死?したナオミを救おうとしていて、今のナオミの器と同調した成熟した大人の精神を手に入れる必要があった。そのためには記憶世界のナオミの精神を大人にする必要があり、瑠璃は八咫烏(神の手)となり記憶世界で瑠璃を失ったナオミに近づき、更に子供の記憶世界の直実から順に大人に育てようと導いてきたのだった。※八咫烏は、日本神話で神武天皇を大和の橿原まで案内したとされており、導きの神として信仰されている。

最後ナオミが直実をかばった場面で、ナオミの精神は現実の体に入れられる状態になった(花火大会の落雷で瑠璃をかばって直美は脳死となったのかもしれない)。そして、直実が「神の手」でナオミを消したように見えたのは、実は現実世界へと精神を転送していたということなのかな。。

結局今作は4つの世界があり、①高校生の直実の世界:アルタラに記録されたデータ、②大人のナオミの世界:脳死の瑠璃を救うため過去データ世界①に自分のアバターを送り込んだ、③本当の現実世界:瑠璃が脳死のナオミを救うため世界②を作り出し八咫烏アバターを送り込んだ、④直実が世界②から瑠璃を取り戻した世界「①´」:京都駅の階段に作った量子トンネルで量子構造を変換して世界①を再構築した新世界

今作の上手いところは、世界①は直実にとっての現実世界、世界②もナオミにとっての現実世界だと観客に認識させて二重構造と思いきや実は3段オチで、その構造世界から逸脱する新たな世界まで創造したところ。

これは深読みすれば、直実と瑠璃は旧約聖書のアダムとイブであり、データ世界の神アルタラの掟を破りデータを改竄するという禁忌を犯した結果、楽園(世界①)から追放され、新世界(世界「①´」)を作ったということなのかもしれない。。

  

最後まで見てわかる「HELLO WORLD」の意味、プログラミングを始める時に一番最初に習う用語だということも映画の内容とリンクしていて良い。この一行を書く、それは何でも作れる新しい世界の入口に立つということ(一行瑠璃:一行を書いて瑠璃色の世界を作る)。

10年かけて救い出した君に10年かけて救い出された僕と僕。自分だったら愛する人のためにここまでやる勇気や覚悟があるか?、世界を変えられるか?

自分が・あなたがいる世界は本当に現実世界なのか、データの中の決められた記憶世界なのか・・気づかない内にカラスが近づいて来ているかもしれない。。

「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」、人間の想像力の力と愛の力の無限の可能性に・・ハロー・ワールド!