◆"生・性"と"死・私"を繰り返すだけの幻想トリップ、モラトリアム学生たちの自分探しの壮大なる暇つぶし、おっぱいいっぱいモンドリアーン
「アラン・ロブ=グリエ レトロスペクティヴ」の3作目、「不思議の国のアリス」と「O嬢の物語」の恐るべき邂逅と評された初のカラー作品。
カラー化によりイマジネーションが更に奔放になった色彩溢れる幻覚トリップと王道の反復を堪能できるアートに近い作品。
カフェ・エデンにたむろするパリの学生たち、倦怠と退廃、リビドーが充満するコミュニティで、擬似的に行われるレイプ、銃殺、毒殺、そして弔いの儀式。退屈な日常から脱するために彼らは様々な芝居を続けるが、ある日突如現れた謎の男が話す知らない遠い国の話、一人の女学生に薬を飲ませて世界は一変する。
謎の男の死、部屋から盗まれた絵、絵の中の世界へトリップ、閉じたカフェから青い空の広がるチュニジアの美しい小島、運河脇の工場の闇、捉えられる女学生、殺し合う学生たち(何度も生き返るパラレルワールド?)。
現実なのか虚構なのか分からないめくるめくイメージの断片、強烈な色彩で彩られた、血と快楽とエロチックな幻想世界が体験できる。
【演出】
視覚芸術としての映画をとことん突き詰めた映像美が圧倒的、女性の美しい肉体が完全にオブジェとなって、石、砂漠、海と調和している。
オープニングはゴダールみたいな赤と青と白のコーディネートから、カフェ内の完全なモンドリアン的な画への移行、そしてカフェの人工的な閉鎖空間からチュニジアンブルーの青空と海、白く美しい街並みへの解放感は鮮やかで気持ちがいい。
生と死を思わせる赤と白のイメージが明確、女学生が赤と白の液体(血液と精液らしきもの)を混ぜ合わせながら身体に塗りたくるシーンは印象的。血はあまりにも鮮やかな赤色であり、虚構としての血のりの赤を強調しているよう(ゴダール論)。
いつものSMプレーでは、サソリを見せてから目隠し・ツンツンして怯えさせるプレイは新鮮。
出演している無名の若手俳優たちは、自分がどんな役を演じるのかも知らされず、ただチェコで 1ヶ月、チュジニア南部のジェルバ島で 1ヶ月の撮影を行うとのみ伝えられて撮影に臨んだらしい。
ヒロイン・ヴィオレットを演じたカトリーヌ・ジュールダンは当時19歳で体のラインや質感がこの映画と完璧に合っている、マイクロミニで闊歩する姿は惚れ惚れする。ちなみにロブ=グリエとは男女の仲で、奥さんも公認、浮気を許容しあっていたという、さすがの夫婦。
※ここからネタばれ注意
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【(ネタばれ)ラスト・考察】
結局、今作もどこからどこまでが虚構なのかははっきりとは分からない。まさしく夢のように、絵の中にトリップして戻ってきただけで、起こる出来事の繋がりも意味もない。
カフェ・エデンで何者かになりたく模索している学生が、あえて高尚な言葉を使って議論したり、演技をしたり、新しい自分に生まれ変わるために死を演じたりするのは、閉塞感の打破や保守的な価値観への抵抗なのだろうか?
ラスト、ヴィオレットは砂漠を彷徨って死にかけたとき、もう一人の自分に助けられてキスを交わす、結局、自分を探し求めて自分を受け入れて自分で解決していかねばならないのだ。
そして、今日もまたカフェ・エデンでは変わらぬ日常が繰り広げられていく・・
映画館を出て、解放された一面の青空の下、今を演じているのか分からなくなった自分に、もう一人の自分が近づいてくる気がした。。