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「アラジン」 ★★★★ 4.1

◆たいがいリッチな極上の鑑賞体験はスピーチレス、ウィルスミスとジャスミン強めなグレイテスト・ショーウーマン感、あなたの3つの願いは?

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イッツ・ア・ホール・ニュー・ワールド、小さい頃に見たアニメの世界観をそのまま上手く現代映画に落とし込んで実写化、何の違和感もない完成度の高い演出はさすがのディズニークオリティ。更に今作はHIPHOP要素とインド映画の要素がプラスされ、誰もが分かりやすく最後まで楽しく安心して観られる極上のハッピーエンドのエンタメ作品となっている。ザ・王道のエンタメ過ぎて、特に考察・レビューも書くことがないほど・・「ハウス・ジャック・ビルト」とは完全にすべてが真逆の作品(笑)。

アクションシーンは迫力があり(暴力的な表現もなく誰も死なず)、ミュージカルシーンは華やかに、ラブロマンスは美しく、そしてコメディシーンは明るくて笑えると、全ジャンルを混ぜながら、ハリウッド版ボリウッド映画のようだった(ペルシャよりインド要素が強かった)。

 

最初の5分間だけで非現実感の摩訶不思議なアラビアンナイトの世界観に一気に連れて行ってくれる、アグラバーのセットとは思えない完璧な世界観をはじめ、全体的な映像の美しさは申し分なし。新キャラをはじめ各キャラクラターや音楽は、現代風にうまくアップデートされており、少し不安だったウイル・スミスのジーニーも、スミス100%でありながら、彼ならではのコメディや音楽(HIPHOP風)もバッチリはまっていて違和感なく大いに楽しめた。

アラジンは最初から盗品の報酬を貧しい子供に分け与えるような優しい男として描かれていて、後半の葛藤や改心するシーン含めて変化に乏しく、悪役のジャファーも見た目を含め小物感が強く、他に比べると若干印象が弱く感じられた。

 

とにかく今作があえて今、新たに作り直される意味は、ジャスミンの描き方にあり、変わる時代背景に合わせながら「アナ雪」以降のヒロイン像・・王子様の助けを待ち続けるのでは無く自ら行動するプリンセスを反映している。母の意志を継いで国を愛し、民を第一に考え、古い時代に女性として一国を背負う覚悟と芯の強さとその内面の美しさが際立っていて、チャラチャラした男には一切隙を見せず靡かない。。

ただ、自分からキスしにいくのはいいが、最初お腹を空かせた貧しい子供に行商人からパンを盗って与えたのは国王を志す者としていいのか?と思いつつ(行商人たちにも生活がある)。。

個人的には、素晴らしい歌声で歌われる新曲「Speechless♪」のシーンは主張し過ぎて少し浮いていたと感じた。「♪わたし本当はそんな人生望んでいないの、男の従属物じゃない、言いたいこと、言うわ、自分のことは自分で決めて自分らしく生きるわ~♪(レリゴーと続きそうな感じ)」・・現代らしく自立した女性を描いて世の女性をエンパワーメントする意義や世の中の流れは理解できる。が、正直あまり声高らかに歌われると「ポリコレのために分かりやすい言葉で説明されてる感」が強く引いてしまった・・グレイテスト・ショーウーマン感。

ディズニーには夢や魔法のファンタジー映画として「押し付ける形でなく」メタファーとして自然に感じさせて欲しかった(あくまでも個人的な好みで、子供含め分かりやすい表現も必要だし歌も演出も盛り上がったのは間違いない)。

 

【演出】

全体的に映像センスやテンポ感、リズム感も良く、ダンスやアクションなどの三次元的な動きやアニメーション的表現、ミュージカル仕立てと実写映画ならではのバランスは見事(ただ中盤以降ダレてしまう部分もあって128分は少し長かった、中盤10分ほど短くすれば良かった)。

街を逃げ回るアクションシーンのカメラワークなどはガイ・リッチーっぽさを感じたが、後はブロックバスター映画の職人監督としては良くも悪くも超無難な仕上がりで、「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」や「スナッチ」の頃(マドンナの夫の頃)の溢れる才気をまた見たいとも思う。

盛り上がるはずの「A Whole New World」2人で魔法の絨毯で飛び回るシーン、幻想的でリアルな夜空と海と街並みは美しかったけど、肝心の2人の顔が暗すぎて、生まれて初めて感じる恋する表情があまり見れなかったのは残念だった。

猿のアブー、虎のラジャー、オウムのイアーゴと3人のキャラに合わせた動物が相棒となって活躍するが、アニメと違って表現に制約があるのか(実写だと動物虐待のクレームが来る?)、面白みに欠けたのは残念。特にジャファーの相棒イアーゴ、今作は単語を繰り返し言うだけの本当にただの鳥扱いになってた・・(本来アニメの続編以降は欠かせないレギュラーキャラになるのに)。

エンディングの出演者全員でのキレキレダンスがインド映画並みに凄い(早回しで合わせてる?)、エンドタイトルの「Friend Like Me」がDJ.Khaledなのがノリノリで良い。

 

【役者】

とにかく予想以上にウィル・スミスが素晴らしかった。ほぼCGの青いウィル・スミスだったけど、このキャラをコミカルに違和感なく演じられるのは他にいない気もしてくるし(エディーマーフィーだと全然違うものになる笑)、曲も新しくボイパやラップ調に合わせたのも良かった(ロビン・ウィリアムズジーニーのコピーではなく自分らしさを出そうという意思を感じられた)。このジーニーのスピンオフなら短編でいいので見てみたい、魔人になった経緯や今回の人間になった後の生活など)。。後はやはり、声魔人・山寺宏一の吹き替えジーニーも新旧比べながら見てみたい。

ジャスミンのナオミ・スコットは、アニメとは違うのだが、歌上手すぎて美し過ぎてずっと見とれていた、以前演じていた「パワーレンジャー」のピンクレンジャーとは全く違う役柄ながら、ジャスミンの気高さと芯の強さを見せる存在感が見事だった。次回作、チャーリーズ・エンジェルのリブート版も楽しみ!

アラジンのメナ・マスードはエジプト出身の素人だったらしく、アニメとはかなり印象が違ったが、今作の若干控えめで存在感の薄いアラジンには合っていたのかなとも思う(ジャスミンジーニーの印象が強すぎたので)。

問題はジャファーで、悪役の極みで憎むべき存在なのに、全く悪役感の風格がない小物感が強く、優しさが滲み出るイケメンオーラを隠しきれていなかった。初老で外見の気持ち悪さ(10代で結婚させられる嫌悪感)と、コソ泥から国のナンバー2まで登り詰めてきた苦労や狡猾さ・究極の悪どさが無いので、ラストの対決でのカタルシスが弱かった(吹き替えは北村一輝、顔の濃さで選ばれたのか?)。

 

※ここからネタばれ注意 

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【(ネタばれ)・考察】

魔法で国王となりジャスミンと結婚しようとしていたジャファーをアラジンが止めて、ジャファーはランプに閉じ込められ永遠の洞窟の中へ(いつか魔人として復活するのか?)。ここでジャファーがヘビに変身するシーンがないのはおかしい、ただでさえ小物感なのにラスボス感が最後まで全くないまま終わったのは残念。

そしてアラジンはありのままの自分を受け入れてもらい、ジャスミンは父から国王を受け継ぐ。ジャスミン「よその国の男の国王じゃなく、私がこの国を守りたい。あなたはどう思う?」に対して、アラジン「僕の意見がそんなに重要?」と返すシーンが今作をよく表している。

ジーニーは、アラジンの最後の願いで、人間になって侍女ダフネと結婚・子供を持って世界を旅する約束を叶える(これが冒頭の船で過去を語るシーンにつながる)。ジーニーが望んでいた自由とは本当に人間(愚かなもの)になることだったのかなあ・・とも思いつつ。魔法は使えなくなったので、続編はもう無いのかな?。一応アラジンは「ジャファーの逆襲」、「盗賊王の伝説」の3部作なので、このメンバーでの続きも見たいところ。

 

結局、ジャファーは「自分」のために、アラジンとジーニーはそれぞれ「相手」のために魔法を使うという気持ちが勝敗を分けたのか(これって、アベンジャーズ エンドゲームと同じでは?)。

魔法なんて見た目だけで、所詮は自分の力で手に入れないものは全てまやかし、表面だけを繕ったところで裸の王様でしかないのか・・お金や権力、人の心、物事の本質を見極めて本当に大切なものは何か? 自分だったら3つの願いは何にするのか? 大人になった今、実際に叶わなくても改めて考えてみること自体が大事なことなのかもしれない・・

 

今作は大ヒットしており、リピーターが多いようだが、確かに「吹き替え版」も見てみたいし、「MX4D版」でのアトラクション感(魔法の絨毯で飛んでいる気分)も味わいたいので納得だわ。そして、本物のディズニーランドにも行きたくなること間違いなし。

しかし、今作に続き、今後のディズニー映画は、7月の「トイ・ストーリー4」、8月の「ライオン・キング実写版」(もはや全部CGなので実写になるのかどうか?)、11月の「アナと雪の女王2」、と あら尋常じゃないほどのラインナップが続きますなあ・・