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「きみと、波にのれたら」★★★☆ 3.7

ぶきみと波にのれなかった・・EXILE系の歌唱なみの薄っぺらさにGENERATIONSギャップ、湯浅監督版ゴーストでリア充全開注意も喪失から再生への優しいメッセージ

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「夜明けを告げるルーのうた」に続き、湯浅政明監督×吉田玲子脚本のコンビが王道ラブコメに挑戦ということで期待と不安が入り混じりながら鑑賞。幼い頃からサーフボードが相棒のひな子が消防士の港と運命的に出会い恋に落ちるが、港は海で溺れた人を助けようとして命を落とす、憔悴の中ふと水の中だけに現れる港と再会できて喜ぶが、港が現れた本当の目的とは・・

巷ではキラキラ青春映画と言われているが、その要素は一部分であり、ひな子がどのようにして不安や迷いと向き合い再生していくのか?を描いた作品となっていた。 

 

主題歌や声優がEXILE関係ということで、ターゲットが今までの湯浅作品ファン向けではないこと、アニメに興味のない層も取り込もうとしていることは最初から分かっているのだが・・一般向け恋愛作品にチャレンジ実験作ということで、湯浅監督らしくエンタメに昇華はしているが、あまりにも内容が王道過ぎたかな(対象年齢は中高生くらいの女の子ならば仕方ないのだが)。

映像の美しさはさすがだが、水の表現も特に変化はなく新鮮さや驚きが感じられない、湯浅監督作品の中でも最もポップでマイルドできれいにまとまって見やすい作品ではある。が、過去作のぶっ飛んだ湯浅作品が好きな人には間違いなく物足りないはず(自分も今回は2本立てで「海獣の子供」の後に観た影響もあり軽く感じた)。

 

愛する者が亡くなり残された自分の未来を見ることができない中、突如幽霊?として現れた港と共に過去の時間に生きるひな子。そんなひな子を何とか現実に引き戻そうと助ける周囲の仲間たち。設定は「ゴースト」と似ていて面白いのだが、主人公たちの一面的な部分しか描かれていないので深みが無く全体的に薄っぺらく感じてしまう・・ありがちな描写に定番のセリフが続き、港があまりにも都合のいい完璧マンで人間味にかけているので共感を覚えない。

序盤のリア充爆発のバカップルぶりがあまりにも甘すぎて、観る人によっては気持ち悪いぐらいだが、これは意図的に引き離された哀しさを際立たせるためだろう。同じようにテーマ曲であるGENERATIONS from EXILE TRIBE(長い)が歌う「Brand New Story」が最初からから最後まで何度も何度もかかるのも意図的で、その時々の心境と音楽のリンクによる反復が持つ意味としては分かる・・

が、さすがに使い過ぎでは。好みの問題だが曲がタイプではない・ファンでない人には明らかにしつこいとしか思われないPVレベル(特にEXILE関連だけにプロモーション契約上の理由もありそうだし)。特に二人が鼻歌?でフルバージョンを笑いを入れながら下手くそに歌うのは耐え難かった「バカップルのいちゃつき感」を表現してるつもりでも。

そこからの悲劇も、周りの人は全員優しくて、他の面で追い込まれてることもないので正直そこまでの深い絶望感は感じなかったけど、一人の若者の「幸福⇒喪失⇒自立」までを丁寧に分かりやすく描いているので、湯浅監督ハードルを除けば、幅広い層におススメできる良い作品ではある。

 

※ここからネタバレ注意 

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【(ネタバレ)演出・考察】

ダイナミックでアニメーションならではの表現はさすがの安心感、水の動きと波乗りと料理のシーンの描写は見事(オムライスやコーヒーは本当に美味しそうだった)。ただ作品の内容的に仕方ないが、湯浅監督らしい動かし方や形態の崩し方は適度に抑制されていて、個人的に好きなLSD的ドラッギー映像が少なかったのは残念。

DEVILMAN crybaby」では水と火を印象的なモチーフとして使っていたが、今作でも水と火を印象的な対比として見ると面白い(その時の心象や感情、出会いや別れなど)。

天才・吉田玲子の脚本もそつなく上手いのだけど、今回は分かりやすさを重視したのか唸るところはなく、破天荒で賑やかな演出を得意とする湯浅監督の作風とあまりマッチしていなかった(前作の方がマッチしていたので恋愛ものは合わないということか)。過去の回想の出し方や伏線の貼り方がいまいちで、得意の繊細で言葉にしない感情表現がなく全てを言葉で説明してしまうのは残念。

 

甘々ラブドラマの序盤、ホラーに突入する中盤、ヒューマンドラマ化する終盤、序盤をリアルにし過ぎたせいかファンタジー作品として安心して入り込めない。あそこまでリア充爆発の恋愛を描くのは新鮮ではあったが・・ご飯食べてる時も手を繋いでいたいから左手で食べる練習したの!(って怖いしウザいけど)。

中盤から良い感じに狂気じみてきたところは湯浅監督の本領発揮で、アロハのポーズでノリノリで水の中から登場するのがシュールだし、恋人をスナメリの浮袋に召喚して街を連れ回したりするシーンは完全にホラー!(周りがドン引きしているのも良い)。突然亡くなってしまう地獄から水の中の港にすがりたい気持ちも分からなくはないが、もっと狂気に走っても良かったかな。まあもともと元気でお気楽な主人公だから、いずれ勝手に自立できそうかとも思ってしまったが。。

 

「きみと、波にのれたら」の「、」は「あの夏、いちばん静かな海」を意識しているのだろうか?、湯浅監督のオールタイムベスト邦画に入っていたはず。港が最後のサーフィンで海に向かっていくシーンは北野武映画に漂う死の香りを感じた。

 

声優は主要4人とも俳優を使っているが、やはり片寄涼太が棒も棒すぎてキツかった、抑揚・強弱・感情の幅が狭すぎて(EXILE系の歌唱と同じ薄っぺらさ笑だと思えば納得)、あえて港の人間味にかけているところに合わせたのなら見事だけど(全く演じ分けてはないが)。。

それとは対照的に川栄李奈の上手さが際立っていた、まさかここまで出来るとはビックリ、普通の役の難しさを完全にひな子として表現できていた(あの鼻歌シーンでの笑い声だけは完全に素の川栄だったけどこれは演出が悪い)。本当に器用で声優としても活躍できそうだったのに・・一番いいタイミングでのデキ婚が勿体なくて仕方がない(めでたいのだが)。。

あと、伊藤健太郎は可もなく不可もなく、松本穂香は完全に松本穂香の声なのだが役に合っていたので問題なし(ツンデレがプロトタイプ過ぎたけど)。

 

【(ネタバレ)ラスト・考察】

最後のクライマックス、花火で大炎上した廃ビル上空から大量の水が降り注いで鎮火していく、と共に屋上からサーフィンで降りてくる・・港の「プロメア」並の消化能力とひな子のサーフィン能力は置いといて、ここで展開される映像演出は湯浅監督らしさ炸裂でアドレナリンが爆発する(映像だけでなく合わせて怒涛の様に伏線回収できればもっとカタルシスを感じられたのだが・・)。

懸命に海に出ようとするウミガメの姿(昼間での描写はどうかと思うが)、昔の表彰状を大事にしている母、今回の波に乗れなくても次の波に乗れればいい、失敗したら調整してまた立ち上がればいい、自分は自分のままでいい、など優しいメッセージがさりげなく伝わってくる。

最後にはそれぞれが「波にのって」輝きだしていく、洋子は自分のやりたいことを見つけて自信のないわさびを救い、わさびは消防士として人々を助けられるようになり、ひな子は港に依存するだけではなくなっていく。港にとってひな子がヒーローだったように「誰もが誰かを助けている、誰でも誰かを助けられるヒーロー」なのだ。

 

サーフィンはひな子の心情や人生のメタファーであるが、人生という荒波を乗りこなすためには、人は何度失敗しても何かを失っても、また波に乗る情熱を持ち続けて挑戦を忘れてはいけないのだ。港に頼っていたひな子の新しい出発にエールを送りつつ(わさびと洋子のカップルにも)、「水の中にずっといても波には乗れない」固定観念の中を泳いでいても新たな価値観は生まれてこない、先ずは顔を出して立ち上がってみようか。。