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「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」 ★★ 2.4

◆わがまま・何様・お互い様! 生きるということは迷惑をかけ合うこと、「キスして欲しい:生きているのが素晴らし過ぎる♩」、美談過ぎるが大泉洋ならではの演技は見事

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徐々に体中の筋肉が弱っていく筋ジストロフィー患者の命がけのワガママを描いた実話、悲しい物語ではなく笑って泣いて生きることに勇気がもらえる映画。ストーリー的には実話なので比較的ベタなまま進んでいく、難病ものにありがちな過剰な演技やBGMなどいかにも泣かせるための演出は控えめに、伝えたいことをブレずに響かせてくれる(サブタイトルの~愛しき実話は余計だと思うが)。

監督は前田哲監督、「ブタがいた教室」は素晴らしい作品だったので、こういう題材を扱えるのはさすがベテラン。笑いをバランス良く入れながら、主人公・鹿野がボランティアを思う気持ちとボランティア達が鹿野を想う気持ちが徐々にリンクしてきて、最初は誰もが「何様?!」と言いたくなる鹿野のわがまま放題な態度も愛すべきものに思えてくる。

障害者も健常者も同じ人間、互いに一人の人間として接することの難しさ・厳しさ・そして普遍的な尊さを実感させてくれる、万人におススメできる見やすくて感動できる良い映画ではある。

が、個人的には後半は病気を頑張って乗り越えていく普通の感動ものの要素が強く、最後まで笑いの要素を全開に徹して欲しかった。同じ障害者を扱った作品だと「パーフェクト・レボリューション」や「岬の兄妹」ぐらい踏み込んで描いてくれないと、やはりいつもの感動させるための美談で終わってしまう。

 

障害者と健常者と言うと、どうしても支援者と支援を受ける人という関係性になってしまいがちだけど、ここではお互いが本気でぶつかり合って楽しんだり怒ったりと対等な関係性になっている。対等であるために自立するとは、全てを自分一人の力でこなし生きていくことではなく、自分が望むことにチャレンジできて思うように生きていける世の中にすることであろう。

好きな人と手をつないでキスしてセックスして、ずっと一緒にいたい・結婚したいと思うことを諦めず当たり前のように行うこと・・今作ではちゃんと障害者の性にまつわることも避けることなく描いているのは良い(全く上手くはないが・・NHKの「バリハラ」の方がよほどリアル)。

「夜中にバナナが食べたい」・・自由に動ける私たちが言うのと、自分では動けない鹿野が言うのとは同じわがままでも訳が違う。わがままであることは、自分の思いを隠さずに相手に伝えているということ、本音でぶつかってくる人にはあまり配慮せず、こちらも言いたいことが言いやすくなる。

確かに最初はムカつくことも多いだろうが、長い目で見ればお互い気を遣わず自然体でいられる関係になれるので、介護だけでなく、人と付き合う・一緒に暮らしていく上でとても大切なことだと思う。

 

それでも、今作のボランティアの人たちには頭が下がる、自分には到底できない。。実際には500人ものボランティアがついたらしく、改めて実際の鹿野さんがどんなに魅力的な人だったのかが想像できる。ボランティアの協力で自宅で生活している人が他にどれくらいいるのだろうか?、鹿野さんだから出来たのもあるだろうが、同じ状況の人たちの希望になったのは間違いない。

12歳でこの病気を告げられて20歳までの命と宣告されたら、自分ならどうするのか?、鹿野さんは"常に目標を定めいつでもポジティブシンキング"を突き通して、実際には倍以上の42歳まで生きながらえたという。講演会で鹿野さんから諦めない勇気やパワーを貰った少年、更にその少年から医療の道を諦めようとした田中が立ち直る・・と派生していくところも素晴らしい。

呼吸器を付けて声が出せなくなっても、好きな人とカラオケに行きたい想いに努力を惜しまず、最後には声を出してカラオケで盛り上がるようにまでなったりと、人間の持つ強い想いの力は何よりも大きな特効薬となることを改めて感じられた。

 

ただ、ボランティアの人たちがなぜここまで出来るのか?、鹿野の魅力以外にどういう背景があり、どんな拠り所を見出していたのかなど、もう少しリアルなボランティア側の立場からも知りたかった(描き過ぎてもバランスが悪くなるので難しいが)。

単なる献身的な良い人たちだけではなく、自分探しや興味範囲など(そういう人は夜更けのバナナで脱落するのだろうが)様々な目的や見返りを求めていた人もいたはず。それでも鹿野の命を握っている一方で、鹿野のパワーは周りの人たちも成長させてくれるものであり、美咲の言葉「鹿野ボランティアをナメんなよ!」には胸が熱くなった。

実際には亡くなったのが平成初期の2002年、まだスマホ出現前のSNSなども無かった時代ならではの「つながり」があったのだと思う、いまの時代だとまた変わっていたのではないだろうか・・。

 

【演出、役者】

とにかく大泉洋にしか出来ないであろう役に尽きる、鹿野のキャラと大泉洋のキャラのマッチングが完璧、10kg減量して徐々に身体や言葉が動かなくなっていく顔や心情の変化、表情や目で語る演技が素晴らしい。敵を作りやすいこういう役柄を嫌味なく、仕方ないなあと思わせて愛おしさまで感じさせることが出来るのは、大泉洋ならではの日ごろのキャラの浸透も大きい。

高畑充希(美咲)もひたすら可愛くて役柄もハマっていた、一人の人間としての友情・愛情を抱くようになるまでの感情の変化をうまく表現していて、プロポーズへの誠実な返し方も見事だった。三浦春馬(田中)は、見かけは好青年でも苦悩や葛藤する姿、目だけが笑ってないところや奥に秘めた嫉妬心などを上手く表現していた。

この二人の青春成長物語としても良く出来ていた・・このカップルのエピソードも実話なのだろうか?(さすがに出来すぎかな)。

 

【ラスト】

ラストも、通常なら最期に泣かせて盛り上げるのには必至の「みんなに看取られながら大げさなBGMの中で死ぬシーン、最後の一言など」は一切描かずに、数年後になっているのは良かった。そこまで十分に鹿野の生き様と支え支えられてきたボランティアたちの想い出として共有できているので、涙で終わるのではなく笑顔で終わる人生だったはず。

鹿野のテーマでもあった「障害者の世話をするのは家族と決めつけなくてもいい」、特に母親は障害を持って生んだ責任感から最後まで全てを捧げてしまいがちなところを、「親には親の人生を生きて欲しい」と言うところは、とは言え現実を含めて本当に考えさせられる(最後のお母ちゃんとのシーンは泣いた)。

親だから当たり前、誰かひとりの負担だけが大きくなったり苦しくなったりするのではなく、負担を負担と思わないで相手に本音で寄り添い共に生きていけるフリーな社会にしていくために何が出来るのだろうか・・

 

いろんな場面で出てくる言葉が素晴らしい・・「彼のワガママは命懸けなんです」、「助けてもらう勇気」「迷惑をかけ合う」ことも必要、「許すの、怒るの、どっちなの?」、「何がしたいんだ?何が大事なんだ?」、「自分の気持ちに正直に生きるんだ」、「人は出来ることより出来ないことの方が多い」、「出来ることをやるんじゃなくて、出来ないことをやってみせる」、「後ろめたいなら、嘘を本当に変えてしまえばいいんだ」

 

筋ジスなど障害者のリアルについては、NHKの「バリハラ」が参考になるので、たまには見ると新たな気付きが得られる。先日の某2〇時間テレビのウラ番組として対抗?した「バリハラスペシャル 2.4時間テレビ、愛の不自由、(てん)」(サブタイトルが素晴らしい)は障害者の「性」の実態について、ここまでNHKがやるのかとビックリするくらいに踏み込んだ内容で最高だった。精神疾患LGBTなども含めて知らないことが多く考えさせられる内容で素晴らしかった・・

途中ふと某〇チャンネルに変えたら嵐とお笑い芸人が全く関係ない企画でふざけていた・・心の底から嫌悪感しかなかった。。意味の無い太った人の酷暑マラソンや障害者がハンデを乗り越えて体を張って頑張る姿を見せるだけ(募金自体には否定しません)のバラチャラエティー番組よりは、まだこの映画を観た方がマシなのか・・あ、この映画も日テレ製作だったか・・なるほど。。