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「ダンケルク IMAXフルサイズ版」 ★★★★☆ 4.7

◆毎回ノーヒットノーラン監督の究極の映像体感映画に興奮度も愛MAXIMAX70mmフィルムをフルスクリーンで隅々まで堪能できる戦争体験に公開ダンケシェン!

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クリストファー・ノーラン監督はじめての史実に基づく戦争映画、第2次世界大戦初期、独軍によってダンケルクに追い詰められた40万人もの連合軍の兵士たちの決死の撤退作戦を、陸海空3つの異なる視点と時間軸を使い分けながら臨場感たっぷりに描く究極の映像体感映画。

2年前の公開時にもIMAXで鑑賞していたが、今回IMAXフルサイズ版での再上映ということで、グランドシネマサンシャイン池袋で鑑賞(オープンプレ上映がダメだったので諦めていたが2週間21時から限定公開してくれて感謝)。

目の前に迫る壁一面の日本最大スクリーン、最大画角1.431のフルサイズにIMAX70mmフィルムカメラで撮影された映像が映し出された瞬間から興奮度も相MAX!。スクリーンの字幕の表示場所が真ん中だったので、最初は少し困惑したが、地面までの画面で真下に表示するとさすがに見づらいので仕方なし。

オープニングからいきなり戦地に放り投げ出される、投降をうながすビラが空から舞い落ちるファーストショットから天井の空から本当に落ちているような臨場感。そしてドイツ軍による銃撃戦のスリルは正に目の前で起きているのかと錯覚するほどリアル。

改めて縦が広がることでこれほど画に奥行きが出るものなのかと感心しつつ、路地から海に出た瞬間の視界一面のスクリーンに広がる海と空にただただ感動しまくり・・砂浜も海も空もどこまでも広く続いているからこそ、どこにも行けない兵士たちが際立ち、海と空の青さの圧倒的な美しさの下で、こんなにも愚かなことが行われている悲劇。

本当に空を見上げ飛んで、海に投げ出され溺れて、耳をつんざくような銃声や爆発音が響く、ダンケルクに残された感覚がシンプルに怖い、まさに"戦争体験"という言葉がふさわしい(映画でこんなに怖いなら本物の戦場なんか絶対に耐えられない)。一兵士から見た戦争とは、敵も見えない・戦況も分からない状況の中で、ずっと恐怖と共にただ死にたくないという本能だけで銃を撃ち逃げ惑うことなのか。。

 

考える余地も与えられない危機的状況の連続に見る側も極限に追い込まれる、ドキュメンタリーのようでもあり、限られた時間の中でどうするどうなるかというサスペンス映画のようでもある。構成としても面白く、逃げる/助ける/戦うという陸//空の戦闘を、防波堤:1週間、海:1日、空:1時間という異なる時間軸で表現し、最後にこれらの時間軸が交差する(若干分かりづらいので混乱する人もいるかな)。

ダンケルク海岸で救援を待つ兵士達、救助に向かう小型船舶、そしてドイツ空軍を迎撃する英国パイロット、まるで彼らと共に自らがダンケルクにいるかのごとくあっという間の106分の擬似体験をすることができた。特に今作はセリフの少なさもあって没入感が凄く、ドイツ兵の描写がほぼ無いのもスリリングで良い、そして、どの目線からも映し出される水の怖さ。

どのシーンもほとんどCGを使わず妥協を許さない本物志向だからこそリアルな映像として説得力があり(凄すぎてどこがCGなのか分からない)、この奥行き・広がり感は3D4Dもいらない、家のテレビでは決して味わえない正に「映画館で観る意味や価値のある映画」。

 

徹底的にヒューマンドラマとして描かないことで生まれる戦争の悲惨さ、秒針の音に合わせて機械的即物的に人が動き死んでいく。一人一人の心情に深入りしないノーラン監督らしい描写も戦争の残酷さ、冷たさを伝える要素の一つになっていて、みんなが生きて帰るのに必死なのだということが船から1人追い出そうとするシーンからも分かる(よくある哲学的な話だが実際にリアルなので考えさせられた)。その一方で諦めて入水自殺する人もいたり何とも言えない気分にさせる。

描かれるのは何人もの敵兵を倒していく強者ではなく、兵士達に命令を下す指揮官でもなく、あえて何でもない名も無き一兵卒たちに焦点を当ててるのも良かった(何度も誰が誰だか分からなくなったが)。

そして、多くの民間人が死を恐れずに小型船舶で助けにきた心意気は、あらゆる軍人たちに勇気を与えたに違いない。みんなそれぞれ自発的に「義務」としてさりげなく果たしているのが何ともカッコ良い 。結局、この作戦で860隻もの船舶が救援に駆けつけ、駆逐艦と大型船含めて英仏合わせて33万人もの兵士を救出したという。実際の戦時中にも名もなき勇者たちの自己犠牲や誇り高い行動が、あちこちで多くの命を救っていたのだろう。

 

【演出】

IMAX70mmフィルムカメラ撮影はもちろん、計算されたフレームの構成、カメラワーク、グレーディング、クロスカッティングなどノーラン監督のこだわりが全編に渡って炸裂していて、逃げられない張り詰めた空気感と音響効果での臨場感は最高峰。

飛行機のスピットファイアも本物を使ってるらしく、揺れ動く機体と弾丸の飛び交う画面とコクピットも画面上下が広がると全然違う画に見えて、実際に乗っているような錯覚になる。フルサイズのスクリーンで一体となった没入感から、たまに通常サイズに切り替わって客観的に戻る感じも新しい体験だった。

会話が非常に少ないのでほぼ音楽で状況説明している、もう一つの主役と言ってもいい音響は、アカデミー音響賞を取ったのも当然の素晴らしさ。横から弾丸が撃ち込まれたり、背後がいきなりぶっ飛ぶの衝撃音など、ひたすら音が飛び交い続ける・・自分の心臓音と呼応して、死が迫ってくる緊張感が全く抜けなかった。

そして、終始煽り盛り上げる劇伴音楽、ノーラン映画ではお馴染みのハンス・ジマーの天才ぶり。終始、秒針のように刻み鳴り続く音にいつの間にか勝手に緊張感や心拍数を上げられている。後半で効果的に使われるエルガーの「エニグマ変奏曲」「ニムロッド」も素晴らしい。

 

人物の背景がほとんど描かれない中で、唯一背景が描かれたのが小型船の船長ミスター・ドーソン。自分の子どもが空軍で亡くなった背景からの強い信念での迷いない行動が、他の人たちの分も思い起こさせてくれた。兵士も一般人も誰もに家族がいたり、仕事があり、生活があり人生があったのに、個人の背景や理由など尊重されなくなるのが戦争ということか(最後ぐらいしか女の人や子供も出てこない)。

参考までに「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」のラストの演説「We shall fight on the beaches」が、この映画では撤退した兵士が汽車の中で新聞に書かれたものを読み上げる形になっている。チャーチルの英断により、生きて故国に帰らせる人命救助を最優先にした勇気ある撤退作戦だったということ。

役者としては、感情移入しにくい分をマーク・ライランスケネス・ブラナートム・ハーディキリアン・マーフィーのベテランからバリー・コーガンや元ワンダイレクションのハリー・など信頼できる若手俳優が見事に熱演していた。

 

※ここからネタバレ注意 

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【(ネタバレ)ラスト・考察】

ラスト、ガス欠のスピットファイアダンケルクの海岸上空を優雅に無音滑空するシーンは、それまでの激しい動きと音の中から終わりを告げ平和を願うような美しさに泣きそうになった。。傾いた陽から広い海や砂浜に差し込むあたたかな光たち、スピットファイアが着陸しエンジンが止まる、ヘルメットを脱いで最後に顔が明らかになるトム・ハーディ、火をつけ燃え上がる機体、無言のまま駆けつけたドイツ兵たちに囲まれる・・

そこに流れる「ニムロッド」、全てが完璧だった。このあと彼はどうなったんだろう?、分かってはいるが考えてしまう、最期まで多くの命を救ったヒーローなのに報われることはなかったのだろうか・・

 

そして、最後にずっと続いてきた戦場シーンから、ようやく電車に乗って生還するシーンへ、トンネルを抜けてイギリスの田園風景が見えてきた時の安心感と日常の幸福感がこみ上げてくる。

しかし、本人たちは無事本国に帰れてホッとするというより、溜まり切った疲労と何も出来ず撤退してきた申し訳なさからか表情は冴えないまま。喜びも笑いもないのがやるせなく、「撤退作戦大成功と美談で終わらせるな、いまも戦争は続いているぞ」という現実も突きつけられる。

周りの人たちや新聞での賞賛の中、ラストカットの彼の表情・虚ろな目の中にあなたは何を見るだろうか?

 

監督が本当に表現したい意図通りのものをありのままに堪能するために、IMAXフィルムカメラ(大きく手持ち不可能で大変)で撮影された作品は、絶対にIMAXフルスクリーンで公開するべきだし観るべき。次回作もIMAXフィルムカメラは間違いないだろうし、楽しみに待っていたいが、その前に「ダークナイト」や「インターステラ」のIMAXフルスクリーン版を何としても観たいので、今作同様に公開して下さい、サンシャイン様よろしくお願いします!