映画レビューでやす

年間500本以上観る会社員のありのままのレビュー

「七つの会議」 ★★ 2.3

TBS日曜劇場2時間ドラマスペシャル、豪華アベンジャーズ集結の池井戸潤オールスター感謝祭、暑苦しい顔芸で薄ら寒いセリフを隠蔽し合いたくて遭いたくて震える・・

f:id:yasutai2:20190921160928j:plain

池井戸潤原作、映画「空飛ぶタイヤ」、TBSドラマ「半沢直樹」「陸王」「下町ロケット」「ノーサイドゲーム」などと同じく、良くも悪くも池井戸潤ファンムービーとしての熱い男たちの企業ドラマ。監督はこれらTBSドラマのディレクターでもある福澤克雄監督(あの福沢諭吉の玄孫、映画「祈りの幕が下りる時」は良かった)。

いつもの過剰な顔芸と演出の勢いで強引に話を進めていく、ここまで突き抜ければクセの強さも作品の持ち味だとは思うが、やはり映画としては全く評価は出来ない。企業エンタメのスペシャ2時間ドラマとしては面白いし、一連のドラマも毎週楽しく見ていた方だが、今作は近年続く池井戸物語に慣れてしまっているので、展開を読ませない、飽きさせない、お金を払って観る観点で考えると物足りない。

野村萬斎のキャラが発声も演技もかなり独特な上、出演者の顔芸に次ぐ顔芸でとにかく終始画面が暑苦しく、大袈裟なクサいキレキレな演技に勧善懲悪のストーリー、王道のワンパターンで展開が読めてしまってカタルシスは弱い。それでも普通に見ればスピーディでテンポよく物語が進行し、分かりやすく作られているので万人受けはするし、池井戸ファンにはオールキャスト勢ぞろいで期待通りなので間違いなく楽しめるはず。

 

しかし、パワハラリコール隠し、下請けイジメ・・これだけの問題や不正が次々と起こるのは、大企業には普通にある話なのだろうか?

根本的に仕事のあり方として、組織のあり方として余りにも古すぎて、今の若者たちに本当に伝わって響くのだろうか? まあドラマなので誇張されている部分は多いが、現実的に似たような不正・コンプラ違反企業のニュースは後を絶たないので、残念ながら日本企業の実態と言えばそうなのだろう。

いろいろな立場の人物が出てきて、様々な考え方で「働く」ということに向き合う様子が描かれていくので、誰かしら自分の職場にいるかもしれないと思わせるのは確か。特に幹部の立場なら要求や責任もケタ違いであり、何とか今を乗り切るために後回し・先延ばしにしたくなるのは正直思うところはあるだろう。下の人たちもそういう文化の下で当たり前に指示され育てられてきて、ましてやあんな大御所役者陣の目力で睨まれた日には従ってしまうのも仕方ない。

数字を追うだけでノルマ達成だけが目的になり、社会の常識より会社の常識がより優先される・・数字の裏にいる顧客のことを何よりも考えなくてはいけないのに、何が大切なことか大きな組織の中では埋もれてしまう。「我々は自分や他人の幸せのために働くのか、それとも企業の利益のために働くのか」・・何のために働くのか?、自分なりの考えを確立していかないと、振り返った時に何もしてこなかったと落胆することになるだろう。

日本企業特有の風土や体質に縛られ続け悪循環に陥っていること、小さな不良で組織は簡単に崩れること、組織のしがらみや部門間・出世競争、価格競争や下請けへの納期短縮など、製造業という世界を知ってもらえる作品でもあるが・・このイメージが付き過ぎると多くの若者たちは一層、会社や部門への愛着や出世などに固執せず、ほどほどに働くのが1番と思わせてしまうので、実際には素晴らしい企業がたくさんあるということも知ってもらいたい。

 

【演出】

テレビドラマの延長なので、演出も照明も音効やカメラワークも全てが過剰なのは仕方ないと諦めるしかない。

おおまかな話としては分かりやすいが、人物像をもう少し掘り下げて描いてくれないと、彼らの生きてきた苦悩が今一つ伝わってこない。各キャラクターのバックグラウンドが弱いので、なぜそのような悪事に手を出してしまったのかを深掘りしていれば、もっとキャラが魅力的に見えたはず・・主人公の八角がぐうたらである意味も発覚・見い出せなかった(原作では八角はあくまでも短編の1つにおける主人公とのこと)。

ドーナツの話は、トーメイテックと東京建電のつながりを暴くものになったりと地味ながら重要な役割を果たしている、また、ドーナッツを無銭飲食する件は、企業で起きる不正や隠蔽の最小単位を表すメタファーとなっていて良かった。

あんなドーナツ泥棒はすぐに見つけられると思うが(さっさと水曜見張るか録画すればいいだけ)、さすがに毎日ドーナツ食べるのはどうなの?とも思いきや、「カロリーゼロ理論」があるから大丈夫かな・・(サンドイッチマン伊達曰くカロリーは真ん中に集まる、ドーナツは真ん中が空いて形がゼロだからカロリーゼロ)。

タイトルの「7つの会議」の意味が結局この映画の中では分からなかった、原作には明確に重要なポイントとなる7つの会議が出てくるのだろうか?

ただ、会議というのは基本的に密室空間で行われるので、不正の温床になると言っても良いはず、その内側の中だけで穏便に解決しようとする姿勢や利益追求主義が横行すると倫理観が崩れ、不正へのハードルが低くなる、社会常識が捻じ曲げられ、会社常識が優位性を持つようになるのは事実。

また、よくあるキリスト教の「七つの大罪」に絡めているとも考えられる、罪の十字架を背負うのか、それとも十字架に背を向けるのか・・「傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲」、各登場人物どれかには当てはめられる(怠惰とか八角はこのために設定されたとしか思えない、本来役柄的に何も怠惰である必要がないし)。

 

※ここからネタバレ注意 

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

     ↓

 

【(ネタバレ)考察】

【役者】

主演の野村萬斎は、狂言・能で培った独特の姿勢や動き・言葉の発声が最初は鼻についたが、今作に要求されるドラマ的には八角の捉えどころのない自由奔放さと信念を貫く強い心を併せ持つ姿を見事に表現していた(演技に力が入るシーンは完全に狂言師のもの、そういや昔に「陰陽師」もあった)。闇堕ちした加害者側の立場から這い上がろうともがく姿は、背景描写が弱いのであまり響いてこなかったのは残念。

香川照之は、定番の安定感でパワハラやらしたら一級品、葛藤が極限まで達したときの顔の表情や腕などの見事な震えっぷり、薔薇を食べ散らかすところは爆笑しかない。

及川光博は、この濃すぎる世界の中でコメディリーフとして観客と同じ立場で考えられる「狂言回し」的な役割をする人物として光っていた、ただ一課の課長なのに「探偵」ごっこばかりで仕事してなかったような・・水谷豊のいない「相棒」としては良かったけど。

鹿賀丈史は、久々だったが絶対的・徹底的な悪者っぷりが際立っていて良かった。橋爪功は、敢えて若干インパクトを抑えておいたキャスティングから既にミスリードの仕掛けになっていた、最終的に偽装事件の首謀者だったのだが、ほとんどの観客が予想していない黒幕だったのではないか。

あとは、片岡愛之助世良正則(地毛だったのか?)、北大路欣也(ラスボス最強説は変わらず)、そして役所広司の贅沢な使い方など、これまでの池井戸作品のドラマを支えてきた実力派が脇をしっかり固めていた。オリラジ藤森は頑張っていたけどこの役者陣の中では浮いていた、役柄的にハマってはいたが言うほど上手くはない。。

個人的には、ほぼ唯一の女性・朝倉あきのかわいさに癒された、「四月の永い夢」でもあった凛とした雰囲気と透明感がありながら意志の強さも感じる声質が素晴らしかった(さすが「かぐや姫」の声優)。

 

【(ネタバレ)ラスト・考察】

最終の御前会議でのドロドロの責任のなすりつけ合いはいかにもドラマ的だけど面白かった・・が、不正に至る経緯が昔の事件からの社内文化を引き合いに出しての展開は、かなり強引でこじつけ感ありありで、してやったりの大逆転感は今一つだったかな。

最終的にカギを握っていた確証は「ネジ」だったのが印象的、「半沢直樹」でも父親がネジ工場の社長だったし・・産業の最も末端ながら一番底の部分で支えている「ネジ」という部品の軽視を強調しているが、これは社会基盤を「ネジ」として支える我々一人ひとりの価値をも強調しているのではないだろうか。。(現実的にはこんな簡単に強度偽装できないし、これだけ大量の不良ボルトがバレずに出回るハズはない、航空機や鉄道会社が見落とすことはないと思う)。

 

エンドロールで八角から語られる長セリフが、今作で言いたいことの全てなのだろう・・個人的には最後までクドイ、これをストレートに言葉で説明せずに、映像で訴えて響かせるのが映画であり、作り手としての意志だと思うが。。

「どうしたら不正はなくなりますか?」という問いに、「不正はなくならない、絶対に」と力強く言い放ち熱く語っていく。「不正は繰り返される、日本人は昔から国のためだと個人よりも組織を優先してきた。今後、我々はそれにNOと言い続ければ数は減っていくはず」、「日本人は侍として、1つの藩に仕えてきた歴史があり、その精神が日本の企業風土を生んでいるのかもしれない」・・社畜精神と藩に縛られるのを例えたのはなるほど、藩(社内)の常識に捕らわれないで、海外(社外)の目も入れていくべき、という脱藩して新しい時代を目指した坂本龍馬のようなメッセージも感じ取られた。

 

「同じ問題が繰り返されないためにはどうすればいいのか?」、映画の中でも現実でもこのような問題は氷山の一角であり、規模や内容は異なっても未だ多くの企業が間違いを犯し続けている。。どんなに質の悪い製品でも安全性が確保されなくても売り飛ばせればいい、老夫婦に強引に営業をかけてでもノルマを達成すればいい、など利益を上げるためならどんなことをしてもいいと言う会社常識が、悪いと分かっていてもなぜ無くならないのか?

そんな問題のある会社、すぐに内部告発して、さっさと辞めればいいのに・・と不思議でならないが、いまだに告発した方がバカを見る(国や政府も平気で裏切る)、辞める・転職しずらい雰囲気や制度と、簡単に踏み切れないのが日本という国。何のために働くのか?「働き方改革」をはじめカタチ・建前だけで終わらないように、先ずは出来ることから、一人ひとりが真剣に考えていくしかないのか。。