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「CLIMAX クライマックス」 ★★★★ 4.4

合法的な薬物体験のできる観るドラッグ、取り返しのつかない最高で最悪な後の祭り映画、どんどんドン引き4つ打ちの踊りながら堕ちていく地獄「今夜はブギーバック

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「アレックス」「カノン」「エンター・ザ・ボイド」「ラブ3D」と毎回観る人の神経を逆撫で徹底的に不快にさせてきたあの鬼才鬼畜ギャスパー・ノエ監督の待望の新作。ダンサーの集団がサングリアに混入されたLSDによって狂ってゆき、迸る本能、蝕まれていく人間性、無秩序、悪趣味と混沌、全てが墜落してゆく一晩の阿鼻叫喚・地獄絵図を描いたストーリー(なんと実話ベース)。

「Don't Think,Feel It!」”観る"よりも"感じる"史上最悪のバッドトリップ映画、奇しくも「沢尻エリカ、合成薬物(MDMA)で逮捕」のニュースも飛び込んできて更なるオチまでクライマックス。最高にカッコよくて最低最悪な映像体験97分間!見終わった後のぐったり感、映画館という閉鎖的な暗黒世界で悪夢のようなトランス状態にさせられ逃げ場なし、改めて映画とは'ドラッグ'のようなものだと実感させられた。

飲み会でハメを外して後悔したことのある人なら何かしら思うところもあるだろう、ダンス・音楽・アート色の強さを含めて今までのノエ監督作品の中でもある意味見やすく入りやすい作品。だからと言ってR18だし耐性の無い人には最恐発狂レベルなので絶対におススメは出来ないが・・今年はラース・フォン・トリアー監督作品もあったし、後はミヒャエル・ハネケ監督作品もあれば完璧だったのに。

 

冒頭の10分間のダンスシーンから正にCLIMAX、最初と中盤の真上から俯瞰ショットで捉えられる22人のフリースタイルダンス合戦は次第にセクシャル度を増していき、キャストクレジットが入ってくる流れがもう完璧。シンプルに人間の動きと音楽、演出だけでここまで魅せてくれるのは流石ノエ監督、アートの域としてこのダンスを観るだけでも元が取れる(「セッション」のラストにも通じる高揚感を感じた)。

そして中盤のテロップを境に、自分を制御し団結していたダンスパートから、制御できず個人も集団も崩壊していくLSDパートに移っていく・・ダンスは肉体での自己解放、ドラッグは本能での剥き出し解放であり、二つの違いは自分で制御できるかどうか・・。そして、"CLIMAX(絶頂)"も人それぞれに変化していき、ダンス表現での絶頂、暴力的な絶頂、性的な絶頂、自己解放の絶頂、絶望の絶頂、人生の絶頂(死)を容赦なく見せつけてくる。

後半は誰がサングリアにLSDを入れたのか?犯人捜しのミステリー要素も特に無く、ひたすら薬物によって堕ちて行く人間を達観した目線で突き放して見せていく、まさに地獄。いつもの小さい子供や妊婦など不快させるネタとしての設定や、独特の揺れ動き続けるカメラワークから艶やかな赤色のトーンの中、VR状態で進む感覚は完全に同じクラブで自分も地獄を味っているようで、気持ち悪くなった。

ズンドコズンドコ無限のフレンチディスコ・テクノが鳴り続け、女性や子供の叫び声、殺してやる!や、自殺しろ!の煽り、罵声が鳴り響く、エロいシーンも全くエロい気持ちにならず、全てが酷くて最悪の悪夢。それでも欲を言えばもっと大きい画面と爆音で酒を飲みながら見たかった(せめてサングリア(ノンアル)でも)、ダンスシーンは何回でも見たいし、2回目は少し落ち着いて純粋にトリップできそうだし。

 

「時間の不可逆性、取り返しのつかなさ」は、ノエ監督がこれまでにも掲げてきたテーマであり、今作でも「人生は一度きり」「クスリはダメ!絶対!」というメッセージ性はあるが説教臭さは無い。客観的に映像として起こる事実だけを見せることで、ダメ、ゼッタイの標語ポスターより芸能人の逮捕劇よりも衝撃的に感じさせてくれる。薬物防止の授業の代わりに今作を若いうちから見せるのが一番効果的だろう、LSD撲滅キャンペーンとして布教していくべき(「レクイエム・フォー・ドリーム」と合わせて)。

 

※ここからネタバレ注意 

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【(ネタバレ)演出・考察】

主演のソフィア・ブテラ以外は全員本物のダンサーであり演技は素人とのことだが、みんな個性的でバラエティに富んでいて観た人は誰かお気に入りキャラが出来そう(ダンスにも各キャラが反映されている)、でもソフィア・ブテラが最高にエロカワいいのが絶望の中でのささやかな救いか。

撮影期間は15日間と短く、脚本は5ページというほぼ即興で進められたのが今作にはマッチしていたのでは、冒頭のダンスは本当に3日間の練習で仕上げたのは驚異的だが。ダンサーたちも演技ではなくて、本当にクスリを与えてキマってるとこを撮っているのかと思うくらいの臨場感だった。

最初に22人のダンサーのインタビュー映像があるが、その質問も挑発的で改めて思うと後のカットにつながってくるので、人物を把握した上でもう一度じっくり見てみたい。その映し出されるテレビの横には「サスペリア」、「切腹 HARAKIRI」、「アンダルシアの犬」などのビデオが積まれていたり、ニーチェカフカフリッツ・ラングの本もあったり、意図的なのは明らかでゴダールとかカラックスからの影響も感じられた。これらから個人的には、もっと暴力的になって惨殺シーンが多くみんな死ぬのかなと思っていたので、正直少し拍子抜けしたところはあり。

 

冒頭の圧巻のダンスシーンは、22人のダンサーが一見個々に即興でコンテンポラリーダンスをやっているように見えるが、次第に個々のダンスに調和が生まれてくる綿密なダンスとカメラワークと音楽の調和、クレーンカメラを含め計算し尽くされた演出と構成力は見事。しかし、ダンサーの肩関節どうなってるのか?フレクシングという技らしいが、クランピング、ワッキング、ヴォーギングなどの繰り出される技が驚異的。 

その統制されたダンスシーンから切れ目なしに続くハンディカムでのロングテイクのワンカットの長回しは、個人の心情をさらけ出すように映していく(もちろんつなぎの編集点はあるが立ち位置や動きの統制は大変だっただろう)。常に人物と共に漂ってくる不穏な緊張感が半端なく、常にどこからか悲鳴や怒声が聞こえてきたり、終始同じ建物内をうろうろと彷徨い出られない=中毒から抜け出せない閉鎖的空間。

更にブレーカーダウン後に明るい照明が血を連想させる赤暗い色合いに変わったり、不安を煽る黄色い通路を通りホールに戻るたびに状況が悪化している絶望感も凄まじい(「アレックス」「サスペリア」「ネオンデーモン」を想い出した)。小さい子供や母親、妊婦がいる時点で嫌な予感しかしないが、近親相姦的な関係をはじめいつもの通り?容赦なくなっていくのが、ノエ監督たる所以か・・

 

細かい凝った構成も普通の人がやるとダサいのだが、ノエ監督がやるとセンス良くカッコよく感じてしまう不思議・・いきなり雪原で女性がのたうち回り倒れた途端にいきなりエンドロール、からのサイレンが鳴ってセローンのスーパーネイチャーの曲で配給会社などのエンドクレジットが流れ、物語の中盤でオープニングが流れたり・・「アレックス」でエンドクレジットから映画を始め、絶望的な結末から時間を遡っていく手法と同じ(フォントが全部違うのも最高)。

逃げ場のない混沌はやがてスクリーン上も狂わせ画面の上下が逆転し、地面が上に来て気持ち悪くなるが字幕までちゃんと上下反転するところも良かった(読めないけど)。そして全てを出し切っているので、エンドロールは全く無しでタイトルが最後に出てスパッと終わるのも気持ちが良い。本来はエンドロールを見ながら余韻に浸ったり考察したりするところだが、すぐに映画館の外に出され明るい街の人混みの中に放心状態で漂うことになるのも狙い通りか(冒頭の雪原に一人のたうち回るシーンとリンクする)。

 

【音楽】

ドン!ドン!ドン!ドン!とキックの四つ打ちビートを維持しながら繋いでいくDJ感覚が内容にも反映されている。フロアの外でも微かな音は聞こえているのだが、ずっと身体全体には低音がズンズンと響いている感じは、映画が終わっても震えが刻んでいた。。

音楽はすべて好みの曲ばかりで最高、オープニングのGary Numan「Gymnopedies」からCerrone「Supernature」の流れに興奮し、Aphex Twin「Windowlicker」やDaft Punkの「Rollin’ & Scratchin」、Thomas Bangalterの未発表曲2曲(Remix ver.)も今作とマッチしていた。特にLii' Louis「French Kiss」を BGMにした男二人の猥談シーンには笑ってしまったが、映像シーンと意味が重なるように絶妙に配置されているのも良かった。

 

【(ネタバレ)ラスト・考察】

とりあえず、ちゃんと朝がきて安心した・・一夜明け現実に戻り、警察が来てドン引きしてから各人の様子を見せられるが、後悔すら出来ない無常感が秀逸。思ったより死人は少なかったが(この辺りもリアル)、これからみんなどうするのだろうか?、それでもまた踊り続けるのだろうか? 地獄の夜が終わって差し込む朝の光景が美しく、物事の取り返しのつかなさを甘美に映し出す(ローリング・ストーンズの「悲しみのアンジー」が染みる)。

最後にLSD薬物混入の真犯人が分かるネタバラシショットが入るけど、もはやそんなことはどうでもいいと思えてしまうほどの後の祭り感。真犯人は最初のインタビューシーンを思い出すとあまりビックリ感はなく「パートナーがLSDを目薬のように差す?」とか言ってた、冷静に見れば一番狙い通り気持ちいい想いが出来た人でもあった(LSDを混入した罪はどう裁かれるのだろう?人も死んでるし殺人幇助となるのか?)。

しかし、ラストのLSDを入れた目薬を点すシーンのヤバさ、今までの全部を包み込むほどの透明感あふれる美しさが怖いくらい。。いっそのこと、すべて彼女の目がLSDでラリって見た一夜の幻想であって欲しかった。が結局、個人的には好きか嫌いかで言えば大好き・最高としか言いようがない、ノエ監督が映画の中に混入したブツにすっかり中毒・マヒしてしまったようだ。。