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「バースデーワンダーランド」 ★★☆ 2.6

◆前のめりに "いかり"が湧いてくる、薄くて中途半端な出来に子供が大人が泣いた・・ちっともワクワクしないしワンダーランドじゃない、こんな誕生日プレゼントは嫌だ!

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大好きな「クレヨンしんちゃん モーレツオトナ帝国の逆襲」の原恵一監督の新作、ある出来事で学校を休んだ典型的な現代っ子のあかねが、破天荒な叔母のちぃちゃんと共に突然異世界に連れていかれ、その世界を救う存在になるという王道のファンタジーアニメ。

しかし残念ながら「クレしんシリーズ」「河童のクゥと夏休み」や「カラフル」など数々の名作を作ってきた監督の作品とは思えない出来で、ストーリー、映像、演出すべてが薄っぺらく中途半端で正直期待ハズレだった。いったい何があったのだろうと心配してしまう原監督(日本シリーズも惨敗したし・違うか)。

ファンタジーなのに異世界観をほとんど描けてないし、アニメーションとしてはアイディアに乏しく見たことのあるシーンばかり、キャラやいろいろ出てくる設定が穴だらけ。冒険もののワクワク感もなく、ジュブナイルものの成長感もなく、最終的にキラキラ世界観光旅行を楽しんで嫌なこと忘れてお土産買って帰りました、という印象しか残らなかった。。

 

青い鳥文庫の児童文学「地下室からのふしぎな旅」が原作だし、あえて昔ながらの分かりやすい設定にして小学生向けに特化したのかと思うが、最近の小学生はもっと進んでいるし感覚も大人のはず。絵本のような映画として子供に語りかけるようなゆっくりとした語り口で進めていくので、恐らく小学生以下がボーっと不思議な旅世界を楽しむぐらいがちょうどいいのかもしれない。近年の「オトナ」向けのアニメに対するカウンターとして狙ったのなら、むしろ挑戦的で良い作品とも言えるかも。

 

※ここからネタバレ注意 

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【(ネタバレ)演出・考察】

ロシア出身のイリヤ・クブシノブのキャラクターデザインは可愛くて良かった、敵役のデザインも良いので、小学生の設定でなく大人向けの内容の方が合っている気がした。

原監督らしさで言えば、小ネタで雑貨屋さんにクレヨンしんちゃん人形が置いてあったり、古い吊り橋を車で渡るシーンの怖さは「恐怖の報酬」のオマージュだったり、ゴツい改造車が水を巡って荒野を暴走するのは「マッドマックス」だったりするところは面白かった。

 

作品に入り込めない原因は、まず主人公が体型も声も小学生には見えないところ(ランドセル背負ってるのに違和感、高校生レベル)、大人っぽいので行動がガキ過ぎて見えてしまう。

全体的に美術や背景はキレイではあるが、異世界の街の作りこみ具合が弱くメカのデザインも凡庸、ヨーロッパにでも来たみたいでオリジナリティの迷い込んだ感じがしない(新海誠の描き込まれた世界に慣れてしまっているので、もっと差別化しないと厳しい)。

冒険の意味や異世界の危機や助ける理由などを登場人物の説明セリフだけで済ませていて分かりにくく、一方で異世界の文明の発達具合や仕組み、危機を救うためのルールや儀式の設定など重要なところが曖昧すぎて、何がどう展開すればどういう結果になるのかよく分からない。

また異世界の登場人物がほぼ本筋に絡んでこないし、主人公の成長に寄与しないし心情の変化も描かれない、肝心の王子の出し方が雑でバッググラウンドが描ききられていないので、最後のカタルシスも全く感じられない。

そもそも異世界の危機設定に深刻さがゼロだから王子のプレッシャーや葛藤も感じられない、「色が失われる!」「水がない!」という割には、旅の中でそんな危機感や緊迫感は微塵もなく、何なら色を失っているはずの世界が色鮮やかだったり、きれいな水の中を泳ぐシーンもあったりする。

危機の設定や悪役のドラマなど、突然に強引に説明される割に物語に寄与してこないし、クライマックスを盛り上げるためだけに無理やり用意した感じ・・公爵の「お前の世界に残酷なものなどないというのか!」という急に繰り出すセリフも特に意味も必要なく白けるだけ。

 

主人公のアカネ役は松岡茉優だったが、さすがに声質がどう聞いても小学生には聞こえず違和感あり、その同級生の役は子役がやっていたので、声の差(年齢の差)が一聴瞭然だった。リアルの演技は上手いのに今作は演技としてはメリハリが無く、彼女の良さがあまり活きてないようだった(「聲の形」は声質を変えていたのに今作は松岡茉優のまんま過ぎた、演出のせいだと思うが)。

ちいちゃん役の杏ちゃんは良かった、逆にリアルの演技はそれほど上手いと思わないのに、声優の方は上手かった、意外に向いてるかも。

 

【(ネタバレ)ラスト・考察】

ラスト、よく分からない雫切りの儀式(雫ではないが)で最後の最後にあかねが自殺する人を止めるように言葉で王子を助ける、まるで自らの力で救世主になったかのような表情で突然いいことを言い出す。それまで文句ばかりで何もしていない単なる傍観者でしかなかったのに、何の前触れも伏線も無くなぜあのセリフが出てくるのか謎すぎる。。

前のめりにさせるイカリを付けていたから?とは言え、自分から前向きに行動するシーンなんてほとんど無かったし、最終的にはイカリには何の効力もなく単なる願掛けだったというオチがきて怒りが前のめりになってしまった(叔母のちぃちゃんの方がポジティブ過ぎてよほど活躍してたと思うが)。

現実世界に帰ってきてあかねの成長が示されることもなくエンドロールになるのだが、結局その中で軽く描写される程度、冒頭で仲間外れ(お揃いのヘアピンを忘れただけでハブるとか怖すぎ)となり、助けられなかった女の子にお土産を渡して再び仲良くなった様子が小さく映されるだけという・・ちょっとだけ前向きな気持ちになれば十分ということなのか?、まあ実際に小学生の行動や成長なんてそんなもんだろと言われればそうなのだろうが。。でもこの程度なら別に異世界で冒険する必要が全くないのでは。

 

個人的に一番気になったのは、あかねのお母さんで、娘がズル休みをしたというのに一切理由も聞かず咎めず、おしゃれな朝ごはんを作って、お気楽に家の中でブランコを漕いでしまう凄さ・・そして全て計算ずくだったかのように、娘の誕生日プレゼントとして成長を促す異世界への冒険の旅を用意するという、まさに「緑の風の女神」だった。。

ラストの雫切りの儀式からのカットは素晴らしかったので、まだ原監督に希望は持てるはず、次作こそは本物の前のめりのイカリを付けて自分が納得できる作品を作って下さい、期待しています!