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年間500本以上観る会社員のありのままのレビュー

「スケアリーストーリーズ -怖い本-」 ★★☆ 2.9

◆物語は人を傷つけ人を癒す、デスノートにイット それに書かれたら終わり。怖さよりもデルトロイズム炸裂のクリーチャーコレクション・ファッションショーを楽しむべし 

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ギレルモ・デル・トロがプロデュースしたベストセラー児童書をベースにしたホラー映画、ハロウィンの夜、町外れの幽霊屋敷で見つけた一冊の本を持ち帰った次の日から、その本に勝手に書かれていく通りに子供が消えていく。名前を書き込まれたら死ぬデスノートのようで、スティーヴン・キングっぽく仲間・いじめっ子・幽霊屋敷といったホラー要素を盛り込んだジュブナイル物語。

血飛沫やグロテスクな描写も無く、手堅く作られた王道・安定・優等生的なホラーという印象でストーレートすぎて清々しい。ジリジリくるホラーというより突然大きな音で怖がらせてくるタイプで、正直ホラー映画としては目新しさも怖さも少なくて物足りない(とは言え怖がりの子供や虫嫌いの人はダメかも)。

それよりも、デル・トロらしいこだわりの複数出てくるモンスター・クリーチャーを楽しむべき、デザインも個性的で凝っていて怖いけど可愛くて憎めない感じがらしくて良い、ほとんどCGを使わず、特殊メイクや着ぐるみとのこと(youtubeに撮影風景が上がってるので是非)。

特に病院のレッドルームでの青白太っちょ女「ペール・レディ」(ジャバザハット?マツコ?似)に、四方八方から追い詰められハグされる絶望感が最高だった。最初の生理的嫌悪感から次第にかわいく滑稽にも見えてくる絶妙なブヨブヨ感と薄ら笑い(着ぐるみかな)、この強烈なトラウマ級のビジュアルが頭から離れない。。

対比的に猪突猛進チェイスの人間離れをした動きの「ジャングリーマン」もインパクトあり、演じているのはTroy Jamesという「America's Got Talent」で全身の関節が外れていくかのようなダンスで話題をさらった人物とのことで納得。

 

原作本は1980年代に出版された全米で700万部を越えるベストセラーで、作品の過激描写に学校図書館に置くことの禁止を求める世論が高まったほどの有名本。短編集ということもありオムニバスのような物語自体は、起承転結のある構成で分かりやすくて良かった反面、新鮮さは無いかなといった感じ。「IT」や「ストレンジャー・シングス」と同じくノスタルジックな少年少女青春ホラーのようだが、そこまで友情や恋愛的な要素は薄いので低い年齢層向けなのか。

日本でいう学校の七不思議や学校の怪談トイレの花子さん」「口裂け女」みたいな、いわゆる童話っぽい怖い話なのだろう。おとぎ話を語り継ぐことがモチーフになって構成されたストーリーは、怖すぎて発禁になったとは言えやはり古典ゆえの使い古された感は否めなかった。

 

※ここからネタバレ注意 

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【(ネタバレ)演出・コメント】

アンドレ・ウーヴレダル監督は前作「トロールハンター」や「ジェーンドゥの解剖」と同様に旧約聖書を意識しているのだろうが、今作は脚本が弱かった気がする。

絶対に来ると分かっていても、やはりホラー的なカメラワークには驚くが、大袈裟な劇伴でのジャンプスケア効果とカット割りの多さは少し残念だった。

合間に執拗に挿し込まれる大統領選挙のニュースとベトナム戦争のメタ描写もちょっとしつこかったかな、子供向けには分かりづらいし中途半端で上手く機能していなかった。ただ、ベトナム戦争当時のアメリカを再現したカルチャーや服装、夜のドライブインシアターで「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」が映されていたり、1968年のアメリカ田舎町の雰囲気はよく出ていた。ホラー好きな主人公のオタク部屋とか細部まで楽しめるし。

 

ダサめのメガネでお茶目なオタク少女ステラを演じたゾーイ・コレッティのキャラクターの絶妙な魅力加減・・正義感だけ無駄に強くて「やったらダメ」なことを全部やっちゃうので見ていてイラッとさせられるし、そもそも悲劇の元は大体ステラの身勝手な行動のせいだし(署長の死と拘置所からの脱走は結局どうなってのだろう?)

登場するクリーチャーは、レイモンはベトナム戦争でバラバラになった兄の死体、オーギーは過去に聞いた怖い話と、それぞれのトラウマに関連していると思われる。兄を戦争で亡くしベトナムへの徴兵逃れをしたレイモンには「自分の番ではどんな物語が書かれるのか怖い」こと「召集令状が届いた」こと、どちらも死に直結する問題なのだろう。

誰かの書いた物語ではなく、自分の物語を自分でどう描いていくのかが重要であり、社会では戦争や選挙といった大きな物語が進行している中でも、彼ら個人の物語は関係なく進んでいくだけ。 「本は怖がらせもするし、癒しもする」・・本を読まない人にも届いて、本を読む人が増えるといいなとも思わされた。

 

【(ネタバレ)ラスト・コメント】

ラスト、サラ・ベロウズにまつわる物語は可哀想でもあった、結局子供たちに害を与えるのではなく警告しようとしていただけだったのか(途中のクリーチャーたちが強烈だったのでラスボスのサラのビジュアルが弱く見えた)。そのサラの代わりにステラが真実の物語を綴る、という展開は激アツだった。

おそらくサラは少年たちをベトナム戦争から守りたかったのではないかと思う、トミーは別として、オギーやチャーリーは直接殺されてはいないように見えるし、レイモンに戦争に行けと突き放した警察官は殺されていた。水銀から子供たちを救いたかったように、家族に裏切られ死んでもなおサラの優しさは失われなかったのかなと。

過去(幻想)と現在が入り交じった構成で、最期の過去(幻想)で落とした眼鏡を現在でかけてあげるシーンはグッときた。ラストカットは失踪した友達2人を絶対に見つける雰囲気だったし、ステラママの失踪の謎、ベトナム戦争を経たレイモンとの再会、など続編にも期待できそう・・「IT」のように大人になってからの続編でも面白そうだが、現時点では続編の制作予定はないとのこと。。